紙の手形・小切手は2027年3月で交換廃止。先代からの手形取引の切り替え方
経理の机の引き出しに、先代の代から使っている手形帳と小切手帳がある。毎月の支払いの一部は手形で、売掛金の一部も手形で受け取っている。承継してから「いつかは電子化を」と思いながら、経理担当に任せたままになっていないでしょうか。
紙の手形・小切手には、もう決まった期限があります。この記事は2026年9月25日時点で確認した一次情報をもとに書いています。
押さえておく事実は次の3つです。
- 電子交換所での紙の手形・小切手の交換は、2027年3月31日に廃止されます。 多くの金融機関は、それより前の2026年9月30日を手形・小切手の最終振出期限に設定しています
- 自社が「振り出す側」なら、取引銀行の最終振出期限を確認し、振込か電子記録債権(でんさい)への切り替えを決めます。 期限以降に振り出した手形・小切手は、当座勘定からの支払いに使えなくなります
- 「受け取る側」でも対応が要ります。 期限以降に振り出された手形は資金化できない場合があり、取引先ごとに支払方法の変更を相談する必要があります
期限の日付は金融機関ごとに異なるため、この記事の日付は目安として使い、最後は取引銀行の案内で確かめてください。
手形の切り替えを急いだほうがよい会社
- 先代の代から、支払いや入金の一部に紙の手形・小切手を使っている
- 手形の管理は古参の経理担当に任せきりで、社長自身は流れを把握していない
- 「でんさい」という言葉は聞いたことがあるが、自社で何を申し込めばよいか分からない
- 先代の代からの取引先に「手形をやめたい」と切り出しにくい
何が、いつ変わるのか?
電子交換所での交換が2027年3月31日に廃止され、多くの金融機関はその前の2026年9月30日を最終振出期限にしています。2026年1月からは、取適法の対象取引で手形払そのものが禁止されています。
| 時期 | 出来事 | 出典 |
|---|---|---|
| 2026年1月1日 | 取適法(改正下請法)施行。対象取引で手形払を禁止 | 公正取引委員会 |
| 2026年9月30日 | 多くの金融機関が設定した手形・小切手の最終振出期限 | 経済産業省・中小企業庁 |
| 2027年3月31日 | 電子交換所における手形・小切手の交換を廃止 | 全国銀行協会・経済産業省 |
中小企業庁と公正取引委員会は2026年9月2日、事業者団体に向けて「多くの金融機関において、手形・小切手の最終振出期限を令和8年9月30日として設定している」ことを踏まえ、取引先同士で協議して電子的な決済への移行を進めるよう要請しました(経済産業省「約束手形の利用廃止を踏まえたサプライチェーン全体での支払の適正化について事業者団体等に要請を行いました」)。
具体的な例として、三井住友銀行は手形・小切手帳の発行申込の受付を2025年9月30日で終了し、当座勘定からの支払を目的とした振出期限を2026年9月30日としています。期限以降に振り出された手形・小切手は、当座勘定からの支払ができません(三井住友銀行「手形・小切手の発行終了等に関するお知らせ」)。
なお全国銀行協会は、2027年度初めから「手形・小切手が使用できなくなるものではありません」としつつ、電子交換所を介さない決済になるため、金融機関の判断で取扱いが変わる可能性があると説明しています(全国銀行協会 2025年3月26日公表)。「法律で紙の手形が一律に使えなくなる日」と「取引銀行が扱いをやめる日」は別物です。自社にとって効くのは後者なので、取引銀行ごとの日付を確認します。
自社は「振り出す側」か「受け取る側」か?
支払いで手形・小切手を切っているなら振り出す側、売掛金を手形で受け取っているなら受け取る側です。両方に当てはまる会社は、それぞれの確認を並行して進めます。
先代の代からの会社では、社長が自社の支払方法を把握していないことが珍しくありません。まず経理担当と一緒に、次の2つの一覧を作ります。
| 一覧 | 洗い出す項目 | 手元の資料 |
|---|---|---|
| 支払いの一覧(振り出す側) | 手形・小切手で支払っている取引先、1回あたりの金額、支払サイト、使っている当座預金の銀行 | 手形帳の控え(耳)、支払手形の記入帳、当座勘定照合表 |
| 入金の一覧(受け取る側) | 手形で受け取っている取引先、手形の期日、取立を依頼している銀行 | 受取手形の記入帳、手形の現物、取立依頼の控え |
振り出す側で最初に確認するのは、当座預金を持つ銀行の最終振出期限です。全国銀行協会は、各金融機関が設定した最終振出期限の一覧を協会のウェブサイトに掲載していると案内しています(全国銀行協会「紙の手形・小切手利用廃止へ」)。複数の銀行に当座預金がある場合は、銀行ごとに日付が違う可能性があります。
受け取る側で見るのは、手元の手形の期日と、取引先がこの先も手形で払ってくるかどうかです。全国銀行協会は、最終振出期限以降に振り出された手形・小切手を受け取った場合、「資金化できない場合があります」と注意を呼びかけています。2027年4月以降を期日とする手形の代金取立受付を終える動きがある点も、同じページで案内されています。
取適法で、何が禁止されたのか?
取適法の対象取引では、2026年1月1日以後の発注にかかる製造委託等の代金を手形で払うことが禁止されました。でんさい等でも、受領から60日以内の支払期日までに満額を現金化できない形は使えません。
2026年1月1日に、下請法は「中小受託取引適正化法(取適法)」に変わりました。公正取引委員会は、支払手段として手形払を禁止し、電子記録債権やファクタリングについても「支払期日までに代金に相当する金銭(手数料等を含む満額)を得ることが困難であるもの」を禁止したと説明しています(公正取引委員会「取適法・振興法」)。
中小企業庁の要請文では、例として「物品等の受領日から起算して60日を超える満期を設定した電子記録債権」による支払いは原則として禁止されると示されています。先代の代からの「手形で120日サイト」という払い方を、そのまま「でんさいで120日」に置き換えるのは、取適法の対象取引では認められません。
取適法の対象になるかどうかは、取引の内容と、発注側・受注側の資本金や従業員数で決まります。公正取引委員会は、資本金の基準に加えて、製造委託等では従業員300人、役務提供委託等では従業員100人という従業員基準を追加したと説明しています。自社の取引が該当するかどうかは、公正取引委員会の資料で確かめ、判断が難しければ顧問の弁護士や税理士に相談してください。この記事では条文の解釈には踏み込みません。
手形・小切手の代わりに、何を使うのか?
全国銀行協会が代替手段として挙げているのは、でんさい等の電子記録債権とインターネットバンキングによる振込です。支払サイトを残す必要があるかどうかで選びます。
| 手段 | 向いている場面 | 始める前に確認すること |
|---|---|---|
| 振込(インターネットバンキング) | 支払期日に現金で払える。支払サイトを残す必要がない | インターネットバンキングの契約と、振込の承認者・操作者の権限設定 |
| でんさい | 支払サイトを残したい。受け取った債権を分割して譲渡・割引したい | 取引銀行への利用申込と審査。取引先もでんさいの利用者であること |
| でんさいライト | インターネットバンキングの契約がない。スマートフォンやタブレットで使いたい | 取り扱っている金融機関かどうか、手数料の体系 |
でんさいネットの説明では、でんさいは手形と違って印紙税がかからず、紛失や盗難の心配がなく、支払期日には口座に自動で入金されます。受け取った債権は分割して譲渡や割引ができます(でんさいネット「でんさいとは」)。
利用するには、窓口となる金融機関に申し込み、審査と利用契約を経て利用者番号の付番を受けます。でんさいネットは「でんさい取引の相手方(債権者、譲受人、保証人等)も利用者である必要があります」と説明しています(でんさいネット よくあるご質問)。自社だけ申し込んでも、取引先が未登録なら使えません。取引先との相談が要るのはこのためです。
インターネットバンキングの契約がない会社向けに、スマートフォンやタブレットから使える「でんさいライト」も案内されています(でんさいネット「でんさいライト」)。取り扱う金融機関は限られるため、取引銀行に確認します。
社内では、どの業務が変わるのか?
変わるのは支払方法だけではありません。手形帳の管理、手形の記入帳、会計ソフトの科目、支払いの承認手順が、経理担当1人の手順として残っていないかを確認します。
先代の代から手形を扱ってきた会社では、手形まわりの作業が特定の経理担当の手順として根付いていることが多く、属人化の典型的な置き場所になっています。切り替えの機会に、次の作業を誰がどこでやるかを書き出しておくと、担当が辞めたときに止まる業務を減らせます。
| 今の作業 | 切り替え後に決めること |
|---|---|
| 手形帳・小切手帳と印鑑の保管 | 未使用の手形帳・小切手帳の扱い(銀行に確認)、インターネットバンキングの操作権限と承認者 |
| 支払手形・受取手形の記入帳(紙・Excel) | でんさいの記録や振込の明細を、どこに一覧として残すか |
| 手形の期日管理と取立依頼 | でんさいは期日に自動入金。入金予定の確認方法を決める |
| 会計ソフトへの仕訳 | 電子記録債権・電子記録債務の勘定科目の扱い(顧問税理士に確認) |
| 社長印を押して手形を振り出す承認 | 振込やでんさいの発生記録を、誰が作成し誰が承認するか |
支払いの承認手順は、紙の判子の回覧と同じく、承継を機に見直しやすい業務です。決裁の流れそのものを見直す場合は、判子の回覧をやめる。承継後の稟議・決裁フローのデジタル化で段階別の進め方を整理しています。
経理担当の退職で会計ソフトの判断基準が分からなくなる事態への備えは、経理担当者が辞めた。会計ソフトのIDも仕訳の判断基準も分からない、を防ぐにはで扱っています。手形の切り替えで作った一覧は、そのまま引き継ぎ資料の一部になります。支払方法と同じ時期に請求書・見積書の紙運用も見直す場合は、見積書・請求書の紙運用をやめる方法と移行先で移行先の選び方を扱っています。
会計処理や税務の判断はこの記事の範囲外です。科目の設定や過去の手形の処理は、顧問税理士に確認してください。
先代・経理担当・取引先に、どう切り出すか?
期限は銀行と国が決めたもので、社長の好みで始める改革ではありません。この事実を最初に共有すると、先代の代からのやり方を否定する話にならずに済みます。
手形をやめる話は、先代や古参の経理担当にとって「これまでのやり方を変えられる」話に聞こえることがあります。ただ今回は、取引銀行が振出期限を決め、国が事業者団体に移行を要請している状況です。社内には、全国銀行協会や取引銀行からの案内をそのまま見せるのが伝わりやすい方法です。
取引先への連絡は、支払う側と受け取る側で内容が変わります。以下は連絡文の記入例です。当社や特定企業の実際の文面ではありません。自社の取引条件と取引銀行の案内に置き換えて使ってください。
- 支払う側から:「取引銀行の手形・小切手の振出期限に伴い、弊社からのお支払いを振込(またはでんさい)に切り替えたいと考えています。支払日と、でんさいをご利用中かどうかを確認させてください」
- 受け取る側から:「紙の手形の交換廃止を前に、御社からのお支払い方法について今後の予定を伺えますでしょうか。弊社ではでんさいの利用を申し込む予定です」
先代の代からの取引先ほど、担当者同士の付き合いで支払条件が決まってきた経緯があります。支払方法を変える相談と、支払サイトや単価の交渉は、別の話として分けて持ち出すほうが相手も判断しやすくなります。取引先との段階的な移行の進め方は、FAX受注の事例を扱ったFAXでの受注をやめられない取引先との、段階的な移行の進め方も参考になります。
承継社長が今週やること
期限まで日数が少ない会社もあるため、今週できることを3つに絞ります。
- 経理担当と、手形・小切手を使っている支払いと入金を一覧にする。 取引先名、金額、期日、使っている銀行の4項目だけで足ります
- 当座預金を持つ銀行に、最終振出期限と代替手段の申込方法を問い合わせる。 未使用の手形帳・小切手帳の扱いも同時に聞きます
- 手形で支払っている、または受け取っている取引先のうち、金額の大きい1社に連絡する。 でんさいの利用状況と、切り替えの時期を確認します
よくある質問
2026年9月30日を過ぎたら、紙の手形は一切使えなくなるのですか?
一律ではありません。全国銀行協会は2027年度初めから手形・小切手が使用できなくなるものではないとしていますが、多くの金融機関が2026年9月30日を最終振出期限に設定しており、期限以降に振り出した手形・小切手は当座勘定からの支払いに使えなくなります。自社の取引銀行が設定した日付を確認してください。
手形で受け取っている側ですが、何か対応が必要ですか?
必要です。最終振出期限以降に振り出された手形は資金化できない場合があり、2027年4月以降を期日とする手形の代金取立を受け付けない動きもあります。取引先に今後の支払方法を確認し、でんさいで受け取る場合は自社も利用者として申し込みます。
でんさいは、自社だけ申し込めば使えますか?
使えません。でんさいネットは、でんさい取引の相手方も利用者である必要があると説明しています。取引先がでんさいを利用しているかを確認し、利用していなければ振込への切り替えも含めて相談します。
手形のときと同じ支払サイトを、でんさいで続けてもよいですか?
取適法の対象取引では、物品等の受領から60日以内の支払期日までに満額を現金化できない電子記録債権の使用は原則として禁止されています。対象取引かどうかは公正取引委員会の資料で確認し、判断が難しい場合は顧問の専門家に相談してください。
会計ソフトの設定はどうすればよいですか?
電子記録債権・電子記録債務の勘定科目の扱いや過去の手形の処理は、会計・税務の判断になるため、顧問税理士に確認してください。社内では、どの記録を誰が会計ソフトに入力するかという手順を先に決めておくと、担当者が変わっても続けられます。
