会社を継いで3年目。先代の代から使ってきた販売管理システムが古くなり、作り直しの見積もりを取ったら数千万円になった。顧問の税理士からは「事業再構築補助金を使えば半分くらい出るのでは」と言われ、検索してみると、名前の似た補助金がいくつも出てくる。どれが自社の作り直しに使えるのか、分からないまま年末が近づいている。
結論から書くと、2026年11月時点で、オーダーメイドのシステム開発費を補助対象にできる国の主な補助金は「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」と「中小企業省力化投資補助金(一般型)」です。ただし前者は新しい製品・サービスや新しい事業のために使う専用のシステムが対象で、先代のシステムを同じ用途のまま作り直す費用は対象外です。後者は既存の業務を対象にできますが、業務量がどれだけ減るかを数字で示す計画が必要です。
この記事は2026年11月3日時点で、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の第2回公募要領(1.0版、令和8年11月)、中小企業省力化投資補助金(一般型)とデジタル化・AI導入補助金2026の公式サイトを確認して書いています。公募要領は改訂されることがあるため、申請の前に必ず最新版を確認してください。
先に要点をまとめます。
- 事業再構築補助金の新規の応募受付は、2025年の第13回公募で終わっています。 いま候補になるのは、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金、省力化投資補助金(一般型)、デジタル化・AI導入補助金の3つです
- 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金は、既存のシステムの単なる置き換えを対象外としています。 補助事業で取得したシステムは新しい事業に専ら使う必要があり、既存の事業と共用する基幹システムは対象になりません
- 承継した会社は、先代の時代の補助金の採択歴と、事業譲渡などで事業の持ち主が変わる時期を先に確認します。 採択から16か月以内の会社は申請できず、交付決定の前に申請の権利を他社へ引き継ぐこともできません
どんな会社向けの記事か
- 先代の代からの基幹システムや販売管理システムを作り直したいが、費用が大きい
- 「補助金で半分出る」と勧められたが、どの補助金の話なのか分からない
- 事業再構築補助金やものづくり補助金という名前は聞いたことがある
- 承継を機に、新しい事業やサービスを始めることも考えている
既製のツールやクラウドサービスを導入する場合の補助金は、デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)は先代からのシステム刷新に使えるかで扱っています。この記事は、自社専用のシステムを開発会社に作ってもらう費用に絞ります。
事業再構築補助金は、まだ使えるのか?
事業再構築補助金の新規の応募申請の受付は、2025年に公募された第13回が最後でした。2026年11月時点で、新たに申請することはできません。
中小機構のJ-Net21は、2025年1月の記事で、第13回の公募について「同補助金の新規の応募申請受付は今回が最後」と伝えています(J-Net21「第13回事業再構築補助金の最後の公募について」)。先代の時代に「事業再構築補助金でシステムを入れた」という話を聞いたことがあっても、同じ補助金で作り直すことはできません。
いま名前が近いのは、2026年11月2日に第2回の公募が始まった「新事業進出・ものづくり商業サービス補助金」です。名前のとおり、旧来の新事業進出補助金・ものづくり補助金の名前を受け継いだ制度で、第2回の公募要領も、事業再構築補助金・新事業進出補助金・ものづくり補助金の採択歴を申請の制限に使っています。
システム開発費を補助対象にできるのは、どの補助金か?
オーダーメイドのシステムを作る費用は、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金と省力化投資補助金(一般型)の「機械装置・システム構築費」で扱います。デジタル化・AI導入補助金は、事務局に登録されたITツールの導入が中心です。
3つの補助金の違いを、2026年11月3日時点の公式情報で並べます。
| 補助金 | 何のための投資か | システムの扱い | 補助率・補助額 | 次の申請時期 |
|---|---|---|---|---|
| 新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 | 革新的な新製品・新サービスの開発、既存事業と異なる新市場への進出、輸出体制の強化 | 専ら補助事業に使う専用ソフトウェア・情報システムの購入・構築・借用 | 革新的新製品・サービス枠は原則1/2(小規模事業者2/3)、上限750万〜2,500万円、下限100万円 | 第2回:受付2026年11月30日15時〜締切12月25日15時 |
| 中小企業省力化投資補助金(一般型) | 生産・業務プロセス、サービス提供方法の省力化 | 個別の現場に合わせた設備導入・システム構築(機械装置・システム構築費が必須) | 原則1/2(小規模事業者2/3)、上限は従業員数に応じ750万〜8,000万円 | 第9回:11月4日公募開始、12月上旬受付開始、12月下旬締切の予定 |
| デジタル化・AI導入補助金2026 | 業務のデジタル化・AI活用 | 事務局に登録されたITツールの導入 | 通常枠は原則1/2、5万〜450万円 | 通常枠7次締切:2026年12月1日17時 |
出典:新事業進出・ものづくり商業サービス補助金 公式サイトと第2回公募要領、中小企業省力化投資補助金(一般型)「一般型とは」、デジタル化・AI導入補助金2026「事業スケジュール」。新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の新事業進出枠は、上限2,500万〜7,000万円・下限750万円です。新事業進出・ものづくり商業サービス補助金と省力化投資補助金(一般型)は、大幅な賃上げなどの特例で上限が上がる場合があります。
事業承継・M&A補助金で承継をきっかけにした刷新を支援する枠もあります。こちらとの使い分けは、事業承継・引継ぎ補助金とIT導入補助金、システム刷新でどちらを使うかを参照してください。
先代のシステムを作り直す費用は、対象になるのか?
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金では、対象になりません。省力化投資補助金(一般型)は既存の業務を対象にできますが、作り直しで業務量がどれだけ減るかを示せることが前提です。
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の公募要領には、作り直しに関わる記述が3つあります。
- 革新的新製品・サービス枠は、既存の製品・サービスの生産などのプロセスを改善・向上させる事業を補助対象外としています。 単に機械装置やシステムを導入するだけで、新製品・新サービスの開発を伴わないものも該当しません
- 機械装置・システム構築費の注記で、既存の機械装置・システム等の単なる置き換えにかかる経費を対象外としています。
- 補助事業で取得した財産は、専ら補助事業に使う必要があります。 過去から行っている既存の事業に使う場合は、補助金の交付の目的に反する使用として、残存簿価相当額などを納付することになります
先代の代からの販売管理システムを作り直し、既存の事業でそのまま使う計画は、この3つのどれにも引っかかります。この補助金で対象になりうるのは、たとえば承継を機に始める新しいサービスの受注・予約の仕組みのように、新しい事業のためだけに使うシステムです。
既存の業務を対象にできるのは、省力化投資補助金(一般型)です。公式サイトは、人手不足の解消に向けてオーダーメイドの設備などを導入する計画であること、業務量が削減される割合を示す省力化効果、根拠資料つきの投資回収期間、労働生産性の年平均成長率4.0%以上の増加を要件に挙げています。古いシステムを同じ機能のまま作り直すだけでは、業務量の削減を数字で示しにくくなります。手入力や紙の転記をなくす、拠点間の二重入力をなくす、といった削減の中身を、作り直しの計画に書けるかが分かれ目です。対象経費の細かな扱いは、第9回の公募要領で確認してください。
作り直しの目的がサポート切れへの対応で、期限が迫っているなら、補助金の時期に開発を合わせないほうが安全な場合もあります。延命と作り直しのどちらを選ぶかの考え方は、先代のシステムを「延命するか、作り直すか」の判断基準で扱っています。
承継した会社だけが確かめることは何か?
先代の時代の補助金の採択歴、事業承継の確定時期、代表者のGビズIDの3つです。どれも、申請書を書き始める前に確認しておかないと、申請そのものができなくなります。
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の第2回公募要領から、承継した会社に関わる記述を拾うと、次のとおりです。
| 確認すること | 公募要領の記述 | 承継した会社での確かめ方 |
|---|---|---|
| 先代の時代の採択歴 | 申請締切日から16か月以内に、事業再構築補助金・新事業進出補助金・ものづくり補助金・新事業進出・ものづくり補助金で採択された事業者、または締切日に補助事業を実施中の事業者は対象外 | 先代や経理担当に、直近の補助金の採択・交付の有無を聞き、交付決定通知書を探す |
| 事業承継が確定している場合 | 公募開始日の時点で事業承継が確定していれば、承継先と承継元を一体の事業者とみなし、双方の事業を既存事業として審査する | 承継元の会社がすでに手がけている事業は「新しい事業」として扱われない |
| 交付決定前の承継 | 交付決定の前に、事業譲渡や会社分割などで交付申請の権利を他者に引き継ぐことは認められない | 事業譲渡や会社分割で事業の持ち主が変わる予定なら、申請する会社と時期を先に決める |
| GビズIDプライム | 申請に必要。発行に1週間程度かかり、遅れても締切は延びない | 代表者が交代した会社は、新しい代表者のプライムを取得する |
| 一般事業主行動計画 | 締切日時点で有効な計画を「両立支援のひろば」に公表している必要がある。公表に1〜2週間程度かかる | 先代の時代に策定していても、有効期間を確認する |
| 口頭審査 | 対象になった場合、申請事業者自身(法人代表者など)が対応する。コンサルタントや社外顧問の同席は認められない | 計画の中身を社長自身が説明できるようにしておく |
GビズIDは代表者個人のアカウントのため、社長が交代した会社では新しい代表者が取得し直します。手順はGビズIDの代表者変更は「新規取得+引き継ぎ」。承継で確認する行政手続きのIDで扱っています。第2回の受付開始は11月30日なので、まだ取得していない場合は、締切ではなく受付開始から逆算して手続きを始めます。
開発会社への頼み方は、補助金を使うと何が変わるのか?
交付決定の前に契約・発注した費用は対象外になります。見積もりは条件をそろえて複数の会社から取り、100万円以上のシステム構築費には要件定義書か開発費用の算出資料が必要です。
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の公募要領で、開発会社とのやり取りに関わる決まりは次の4つです。
- 交付決定日より前に契約(発注を含む)した経費は、補助対象になりません。 見積もりの取得や相談はできますが、契約書への押印や着手金の支払いは交付決定の後にします
- 発注先1件あたりの見積額の合計が50万円(税抜き)以上なら、3者以上の同一条件の見積もりが必要です。 原則として、最低価格を示した会社を選びます。先代の代からの開発会社に頼みたい場合も、他の2社以上から同じ条件で見積もりを取ります
- 100万円(税抜き)以上のシステム構築費を計上するなら、実績報告のときに、要件定義の資料(費用見積書を含む)か、作業単価・工数・担当者などを示した開発費用の算出資料を出します。 「システム一式」の見積もりでは足りません
- 契約から納入・検収・支払いまで、補助事業の実施期間内に終える必要があります。 革新的新製品・サービス枠は交付決定日から10か月以内(採択発表日から12か月以内)です
事業計画の作成を手伝った支援者や、金融機関確認書を出した金融機関へ発注することも認められていません。申請を手伝う会社と開発を請ける会社が同じ、という組み合わせは、事前に確かめておきます。見積もりの内訳の読み方は、システム開発の見積書、この内訳の見方で損を防ぐを参照してください。
賃上げの約束は、どこまで負うのか?
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金も省力化投資補助金(一般型)も、従業員1人あたり給与支給総額の年平均3.5%以上の増加を求め、未達なら補助金の一部を返す仕組みです。事業場内の最低賃金にも条件があります。
新事業進出・ものづくり商業サービス補助金の基本要件は、補助事業終了後3〜5年の事業計画期間で、次の水準を満たす計画を作り、達成することです。
- 付加価値額(営業利益、人件費、減価償却費の合計)の年平均成長率4.0%以上
- 従業員1人あたり給与支給総額の年平均成長率3.5%以上。目標値は交付申請までに従業員に表明し、表明していなければ全額返還、最終年度に未達なら未達の割合に応じて返還
- 事業場内の最低賃金が、都道府県の地域別最低賃金より毎年30円以上高いこと。未達の年は「補助金額÷計画年数」を返還
付加価値額が増えておらず、計画期間の過半数で営業利益が赤字の場合など、返還を求めない例外もあります。それでも、システムに補助金が出ることと引き換えに、3〜5年分の賃上げの計画を会社として約束することになります。先代の時代の給与体系を見直している途中の会社は、システムの計画と賃金の計画を同じ表で検討しておきます。
申請するかどうか、何から決めればよいか?
作りたいシステムが「新しい事業専用か、既存の業務でも使うか」を1枚に書き出すことから始めます。そこで当てはまる補助金が決まり、先代の時代の採択歴とGビズIDの確認に進めます。
開発会社や支援者に相談する前に、次の5点を書いておくと、補助金の話と開発の話を同じ前提で進められます。
- 作りたいシステムは何をするものか。新しい製品・サービスのためか、既存の業務の手間を減らすためか
- 既存の事業でも使うか。使うなら、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金は候補から外れる
- 業務のどの作業が、月に何時間減る見込みか。省力化投資補助金(一般型)を検討するなら必要になる
- 直近16か月以内に、事業再構築補助金・ものづくり補助金・新事業進出補助金の採択や補助事業の実施がないか
- 新しい代表者のGビズIDプライムと、一般事業主行動計画の公表が済んでいるか
補助金が使えないと分かっても、作り直しをやめる理由にはなりません。範囲を絞って小さく始める、延命と作り直しを組み合わせる、といった進め方もあります。補助金の締切ではなく、自社のシステムがいつまで持つかから計画を立てます。
