会社を継いで2年目の秋、経理の担当者から「下請法が取適法という名前に変わったそうです。うちがシステム会社に払っている保守料や開発費も、支払いの日を見直さないといけないのでしょうか」と聞かれる。先代の代からの付き合いで、発注は電話、追加の手直しは「いつものよしみで」、支払いは月末締めの翌々月末。先代はそれで困ったことがなかったが、法律が変わったと聞くと、今のやり方のままでよいのか分からなくなる。

結論から書くと、社内にシステムを作る部署がない会社が、自社で使う基幹システムや販売管理の開発を外注するだけなら、取適法の対象にならないことが多いです。ただし、システムを顧客に販売・提供している会社や、相手が従業員のいない個人の開発者である場合は、確認する法律と義務が変わります。この記事では、どの場面で何を確かめるかを順番に整理します。

この記事は2026年10月13日時点で、公正取引委員会の取適法リーフレット(No.01、令和7年8月)と「よくある質問コーナー(取適法)」、e-Gov法令検索に掲載された取適法・フリーランス法の条文を確認して書いています。個別の取引が対象になるかの最終判断は、公正取引委員会の窓口や顧問弁護士に確認してください。

先に要点をまとめます。

  • 社内に開発部門がない会社が、自社で使うシステムを外注するだけなら、取適法の「情報成果物作成委託」に当たらないことが多いです。 公正取引委員会のQ&Aも、自社で作る能力のない部分の外注は対象外としています
  • システムやソフトを顧客に販売・提供している会社、顧客から請け負った開発を外注する会社は、資本金と従業員数の基準を確認します。 自社の資本金が1,000万円を超え、相手の資本金が1,000万円以下なら、対象になる組み合わせがあります
  • 相手が従業員のいない個人や一人社長の会社なら、取適法とは別に、2024年11月施行のフリーランス法を確認します。 こちらは自社で使うシステムの発注も対象で、発注内容の明示はどの会社にも求められます

どんな会社向けの記事か

  • 先代の代からのシステム会社に、開発や保守を頼み続けている
  • 取引先や経理担当から「取適法」「下請法が変わった」と聞き、自社の発注のやり方が対象か気になっている
  • 発注書を出さずに電話や口頭で頼む、追加の手直しを無償で頼む、といった先代の時代の慣習が残っている
  • 個人の開発者や、一人で営んでいる小さなシステム会社にも仕事を頼んでいる

開発会社との契約の形(請負契約と準委任契約)の違いは、請負契約と準委任契約、何がどう違うのかで扱っています。この記事は、その契約に取適法やフリーランス法がかかるかどうかの確認に絞ります。

取適法は、下請法から何が変わったのか?

2026年1月1日に、下請法が改正されて「取適法」になりました。法律の名前と用語が変わり、従業員数による基準の追加、手形払の禁止、協議に応じない一方的な代金決定の禁止などが加わっています。

正式な名前は「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」で、通称が取適法(中小受託取引適正化法)です。用語も変わり、旧来の「親事業者」は「委託事業者」、「下請事業者」は「中小受託事業者」、「下請代金」は「製造委託等代金」と呼ばれます。

公正取引委員会のリーフレットが挙げる主な改正点は、次のとおりです。

改正点内容
従業員基準の追加従来の資本金の基準に加え、従業員数(300人・100人)でも対象かどうかを判断する
特定運送委託の追加製造などの目的物を相手に届けるための運送の委託が、対象の取引に加わった
協議に応じない一方的な代金決定の禁止受託側から価格の協議を求められたのに応じない、必要な説明をしない、といった形で代金を一方的に決めることを禁止
手形払などの禁止手形払を禁止。電子記録債権などでも、支払期日までに代金の満額を受け取るのが難しいものは禁止
電子メールでの発注内容の明示相手の承諾がなくても、電子メールなどで発注内容を示せるようになった

対象の取引では、発注する側に4つの義務と11の禁止事項が課されます。義務は、発注内容(給付の内容、代金の額、支払期日、支払方法など)を書面か電子メールなどで示すこと、取引の記録を作って2年間保存すること、受け取った日から60日以内のできる限り短い期間で支払期日を決めること、支払いが遅れたときなどに年14.6%の遅延利息を払うことです(公正取引委員会 取適法リーフレット)。

ここまで読むと、先代の代からの「月末締め翌々月末払い」や電話での発注が気になるはずです。ただ、その前に確かめるのは、自社の発注がそもそも取適法の対象の取引に当たるかどうかです。

自社で使うシステムの開発を頼むとき、取適法はかかるのか?

社内でシステムを作る仕事をしていない会社が、自社で使うシステムの開発を外注する場合は、取適法の「情報成果物作成委託」に当たらないことが多いです。対象になりやすいのは、システムやソフトを顧客に販売・提供している場合や、顧客から請け負った開発を外注する場合です。

取適法の条文は、情報成果物作成委託を次の3つの形で定めています。

  1. 自社が業として顧客に提供する情報成果物(ソフトウェアなど)の作成を、他社に委託する
  2. 自社が顧客から業として請け負った情報成果物の作成を、他社に委託する
  3. 自社で使う情報成果物の作成を自社で業として行っている場合に、その作成を他社に委託する

製造業や卸売業の会社が、自社の受発注や在庫管理に使うシステムを開発会社に頼むのは、3つ目の「自社で使う情報成果物」に当たります。この場合に対象となるのは、自社でもそのシステムを作る仕事をしている場合だけです。公正取引委員会のQ&Aは、社内の開発部門で作っていても、自社では作れない専門的な部分を外注するなら、その部分は情報成果物作成委託に当たらないとしています。自社のホームページの外注についても、自社で作る能力のない部分なら対象外という回答が載っています(公正取引委員会「よくある質問コーナー(取適法)」)。

保守や運用の委託も同じ考え方です。条文上、役務提供委託は「業として行う提供の目的たる役務」、つまり自社が顧客に提供しているサービスの一部を他社に頼む取引を指します。自社の社内システムを動かし続けるための保守契約は、多くの場合これに当たりません。Q&Aでも、企業が弁護士や公認会計士と結ぶ契約は自社で使う役務なので対象外と説明されています。

自社の取引がどちらに近いかは、次の表で見当をつけられます。

自社の取引取適法の対象になるか理由
社内に開発部門がなく、自社の基幹システムの開発を外注する対象外になることが多い自社で使う情報成果物で、自社では作成していない
自社の社内システムの保守・運用を外注する対象外になることが多い顧客に提供する役務ではない
自社で販売しているソフトや、顧客向けアプリの開発を外注する対象になりうる業として提供する情報成果物の作成委託
顧客から請け負ったシステム開発の一部を外注する対象になりうる業として請け負った情報成果物の作成委託
販売したソフトの顧客サポートを他社に委託する対象になりうるQ&Aは、無償に見えるサポートも役務提供委託に当たるとしている
社内の開発部門で日頃作っている部分を外注する対象になりうる自社で業として作成している部分の委託

「対象外になることが多い」としているのは、会社ごとの事情で判断が変わるからです。たとえば、先代の時代から社内に開発担当者を置き、自社の業務システムの一部を自分たちで作ってきた会社が、その担当者の仕事の一部を外注するなら、Q&Aのとおり対象になりえます。表の右端の理由のどれに当たるかを書き出し、迷う取引は公正取引委員会の窓口に問い合わせます。

対象になる場合、資本金と従業員数の基準はどう見るのか?

発注する側と受ける側の資本金、または従業員数の組み合わせで決まります。どちらかの基準に当てはまれば対象です。プログラムの作成を頼む場合、自社の資本金が1,000万円を超え、相手が1,000万円以下なら対象になりえます。

取引の内容がプログラムの作成や情報処理なのか、それ以外の情報成果物や役務なのかで、基準の金額と人数が分かれます。公正取引委員会のリーフレットの表を、発注する側から見た形に並べ直すと次のとおりです。

取引の内容発注する側(委託事業者)受ける側(中小受託事業者)
プログラム作成、情報処理などの委託資本金3億円超資本金3億円以下
同上資本金1,000万円超3億円以下資本金1,000万円以下
同上従業員300人超従業員300人以下
上記以外の情報成果物作成・役務提供の委託資本金5,000万円超資本金5,000万円以下
同上資本金1,000万円超5,000万円以下資本金1,000万円以下
同上従業員100人超従業員100人以下

従業員10〜100人ほどの会社では、従業員数の基準より資本金の基準のほうが当てはまりやすいはずです。見落としやすい点が2つあります。

  • 「1,000万円超」には、ちょうど1,000万円は含まれません。 自社の資本金がちょうど1,000万円なら、プログラム作成の委託で資本金の基準には当てはまりません
  • 従業員数は、正社員だけでなく契約社員、パート、アルバイトも数えます。 判断するのは発注した時点の人数です。Q&Aは、発注する側に相手の従業員数を確かめる義務はないとしつつ、人数が基準の近くにある相手とは確認のためのやり取りをするのが望ましいとしています

相手の資本金は、相手の会社概要や登記事項証明書で確かめられます。先代の代からの付き合いで、相手の会社の規模を今の時点で知らないこともあるため、取引先の一覧を作るときに資本金と従業員数の欄を加えておくと、判断のたびに調べ直さずに済みます。

取適法とフリーランス法のどちらを確認するかの判定図。相手が従業員のいない個人や一人社長の会社かを最初に確かめ、該当すればフリーランス法を確認する。該当しなければ、自社で使うシステムの外注か、顧客に提供・顧客から請け負った開発の外注かで分かれ、自社で使うシステムで社内に開発部門がなければ取適法の対象外になることが多い。顧客向けの開発の外注なら、資本金と従業員数の基準を確認し、当てはまれば4つの義務と11の禁止事項がかかる。

相手が個人の開発者なら、何を確認するのか?

相手が従業員を使っていない個人や、代表者1人だけの会社なら、取適法とは別にフリーランス法を確認します。フリーランス法は自社で使うシステムの発注も対象にしています。

フリーランス法(特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律)は2024年11月1日に施行されました。条文は、業務委託を「事業者がその事業のために他の事業者に」物品の製造、情報成果物の作成、役務の提供を委託することと定めており、取適法のような「業として顧客に提供する」という限定がありません。自社の販売管理システムを個人の開発者に作ってもらう取引も、自社のパソコンやネットワークの保守を個人に頼む取引も、対象に入ります。

相手がフリーランス法の「特定受託事業者」に当たるかどうかは、次で判断します。

  • 個人で、従業員を使っていない
  • 法人で、代表者以外に役員がおらず、従業員も使っていない

発注する側に課される義務は、自社の体制で変わります。

発注する側主な義務
どの事業者でも(従業員のいない個人事業主を含む)発注したら直ちに、仕事の内容、報酬の額、支払期日などを書面か電子メールなどで示す
従業員を使っている会社、または役員が2人以上いる会社上記に加え、受け取った日から60日以内のできる限り短い期間で支払期日を決め、その日までに払う

ほとんどの承継後の会社は、2つ目の区分に当たります。個人の開発者に「仕上がったら請求書を送って」とだけ伝えて頼んでいる場合は、発注した時点で内容と金額、支払期日を書いたメールを送る運用に変えておきます。個人の開発者に頼むこと自体の向き不向きは、個人開発者・フリーランスに頼むのはあり?承継後の発注のリスクと向き不向きで扱っています。

先代からの発注のやり方で、見直したいのはどこか?

電話だけの発注、口頭での追加の手直し、翌々月末払い、手形での支払い、値上げの申し入れを聞き置くこと、の5つです。取適法の対象かどうかにかかわらず、書面に残す運用にしておくと後の行き違いを防げます。

先代の時代の発注のやり方は、相手との長い付き合いの中で成り立ってきたものです。承継後に見直すときは、相手を疑うためではなく、先代がいなくなっても同じ条件で取引を続けられるようにするため、と伝えると角が立ちにくくなります。

先代の時代の慣習取適法の対象の取引なら対象外でも残しておくこと
電話や口頭で発注し、発注書を出さない発注内容の明示の義務に当たる。電子メールでもよい依頼内容、金額、納期、支払日を書いたメールを送り、返信をもらう
追加の手直しを「いつものよしみで」無償で頼む相手に責任がないのに無償でやり直しや追加作業をさせることは禁止事項に当たる追加の作業は、金額と納期を決めてから頼む
月末締めの翌々月末に支払う受け取った日から60日を超える支払期日は、60日以内に定め直す必要がある支払日を発注時に決めて相手に伝える
手形で支払う手形払は禁止振込や、満額を期日までに受け取れる方法に切り替える
値上げの申し入れを返事をせず聞き置く協議に応じない一方的な代金決定の禁止に当たりうる申し入れを受けたら協議の場を設け、記録を残す

手形での支払いを続けている会社は、取適法とは別に、紙の手形そのものが2027年3月で使えなくなります。切り替えの進め方は紙の手形・小切手は2027年3月で交換廃止。先代からの手形取引の切り替え方を参照してください。

先代が築いた関係を保ちながら条件を整えていく話し方は、先代の顔を立てながら、開発会社と長期的にうまく付き合う方法で扱っています。

判断に迷ったら、どこで確かめるのか?

取引が対象になるかは公正取引委員会のQ&Aと窓口で、契約書の条項の読み方は顧問弁護士に確かめます。問い合わせる前に、取引の内容と双方の規模を1枚にまとめておくと話が早く進みます。

公正取引委員会の取適法のページには、Q&A、ガイドブック、相談の窓口がまとまっています(公正取引委員会「取適法」)。フリーランス法は特設サイトで、発注する側の義務を取引の期間ごとに整理しています(公正取引委員会 フリーランス法特設サイト)。

問い合わせる前に、取引ごとに次の4点を書き出しておきます。

  1. 何を頼んでいるか。 自社で使うシステムか、顧客に販売・提供するものか、顧客から請け負った開発の一部か
  2. 自社の資本金と従業員数。 発注した時点のもの
  3. 相手の資本金と従業員数。 個人か、代表者1人だけの会社かも含めて
  4. 今の発注と支払いのやり方。 発注書の有無、支払いまでの日数、支払方法

この4点は、取引先ごとの契約や連絡先をまとめる台帳にそのまま書き足せます。先代から引き継いだ契約の中身をまだ確かめていない場合は、先代から引き継いだ保守契約、内容を確認せず放置していませんかの手順と合わせて進めると、1回の棚卸しで済みます。

自社が仕事を受ける側なら、何が変わるのか?

大手の取引先から製造や加工を請け負っている会社では、取適法は自社を守る側の法律として働きます。手形での支払いや、値上げの協議に応じてもらえない状態は、取適法の対象の取引なら禁止事項に当たりえます。

承継した会社が部品の製造や加工を請け負っていて、取引先の資本金や従業員数が基準を超えているなら、自社は中小受託事業者として守られる側になります。システムの発注では対象外でも、本業の受注では対象になる、という会社もあります。取引先から受け取っている発注書と支払条件も、同じ表で確かめておきます。