個人開発者・フリーランスに頼むのはあり?承継後の発注のリスクと向き不向き
先代から会社を引き継いだばかりのあなたのもとに、こんな話が持ち込まれることがあります。「知り合いのエンジニアが個人でやってるんだけど、安く作ってくれるらしい」「フリーランスの人に頼んだら、あの受発注管理システム、月3万円くらいでメンテしてくれるって」。取引先や同業の社長から紹介される話は、たいてい「安い」「早い」「話が早い」という三点セットで語られます。実際、個人開発者やフリーランスのエンジニアに発注することには、確かに大きなメリットがあります。しかし、先代の時代にはなかった新しいリスクも同時に抱え込むことになります。この記事では、承継後の後継社長・後継者という立場から、個人開発者・フリーランスへの発注が「あり」なのかどうかを、良い面と悪い面の両方から具体的に整理していきます。
なぜ承継直後に「個人開発者・フリーランス」の話が持ち込まれるのか
先代の時代、システム関連の話は基本的に「昔からの付き合いのある業者」に丸投げされているケースが非常に多いです。先代が個人的に信頼していた地元のIT業者、あるいは全国展開している大手SIerの営業担当と、契約書もあいまいなまま何十年も付き合ってきた、という会社は少なくありません。承継してしばらく経つと、後継社長は必ず一度、「今のシステム、本当にこの値段で合ってるのか」「もっと安く、もっと自社に合った形にできないか」と考える時期が来ます。
そのタイミングでよく出てくるのが、「個人でやってるエンジニアに頼んだら安い」という話です。理由は単純で、個人開発者やフリーランスは、大手SIerや中堅の開発会社と違って、オフィスの固定費や営業部隊の人件費、管理部門のコストを持たないため、見積もり金額そのものが低く出やすいからです。同じ機能を作るとして、開発会社に発注すれば200万円かかる案件が、フリーランスなら80万円で済む、というようなことは実際にあります。
さらに、後継社長自身がSNSやビジネス系のマッチングサービスで個人開発者を見つけやすくなった、という時代背景もあります。先代の時代は「知り合いの紹介」以外にエンジニアを探す手段がほとんどありませんでしたが、今はクラウドソーシングサービスやフリーランス専門のエージェント、あるいはX(旧Twitter)やLinkedInで直接エンジニアにコンタクトを取ることも容易になりました。この「探しやすさ」も、個人開発者・フリーランスへの発注が急増している背景の一つです。
個人開発者・フリーランスに頼む具体的なメリット
まず公平のために、良い面をしっかり見ておきます。
コストが安い
先述の通り、個人開発者・フリーランスは組織としての固定費を持たないため、同じ工数であれば法人の開発会社より見積もり金額が低くなる傾向があります。特に、月々数万円程度の小規模な保守・改修であれば、法人の開発会社では「最低契約金額」に届かず断られることもありますが、個人開発者であれば柔軟に対応してくれることが多いです。先代の代から抱えている古いシステムの、ちょっとした不具合修正や画面の微調整といった「小さな仕事」は、個人開発者の得意分野です。
レスポンスが速く、話が直接通じる
法人の開発会社に発注すると、担当ディレクター、プロジェクトマネージャー、実際にコードを書くエンジニアという複数の人間を経由して要望が伝わることが多く、「言った内容が正確に伝わっているか」が不安になる場面があります。個人開発者・フリーランスの場合は、発注者と実際に作業する人間が同一人物なので、伝言ゲームによる誤解が起きにくく、返信も速いことが多いです。「ちょっとこの部分、明日までに直せますか」という急な相談にも、個人の裁量で即答してもらえることがあります。
技術的に優秀な人材に出会える可能性がある
意外に思われるかもしれませんが、個人で活動しているエンジニアの中には、大手IT企業や有名スタートアップで第一線の開発をしてきた、非常に技術力の高い人が少なくありません。会社員として組織に縛られるより、個人で自由に働きたいという理由でフリーランスになっている優秀な人材は一定数存在します。運が良ければ、法人の開発会社に頼むより高い品質のものを、より安く作ってもらえることもあります。
小回りの利く改修に強い
事業承継後、多くの後継社長がまず着手するのは「大規模な新システムの構築」ではなく、「今あるExcel運用や紙の台帳をちょっとデジタル化する」「既存の受発注システムに小さな機能を追加する」といった小規模な改善です。このような小回りの利く仕事は、大きな組織の開発会社よりも、個人開発者に向いていることが多いです。
個人開発者・フリーランスに頼む具体的なリスク
ここからが本題です。承継後の後継社長が最も見落としやすいのが、このリスクの部分です。先代の時代に「あの人に頼んでおけば大丈夫」という空気の中で仕事を続けてきた会社ほど、リスクへの意識が薄くなりがちです。
リスク1:突然、連絡が取れなくなる「蒸発」リスク
これが個人開発者・フリーランスへの発注における最大のリスクです。法人の開発会社であれば、担当者が退職しても会社として業務を引き継ぐ体制がありますが、個人開発者・フリーランスの場合、その人自身が病気になったり、他の仕事が忙しくなったり、あるいは単純に音信不通になったりすると、契約も保守もすべてがそこで止まります。
実際によくある失敗パターンとして、次のようなケースがあります。
- 個人開発者に発注していた受発注システムの担当者が、突然LINEやメールの返信をしなくなった。電話も出ない。システムに不具合が起きても直せる人がいない状態が数ヶ月続いた。
- フリーランスのエンジニアが「独立して法人化するので、しばらく開発を止めます」と一方的に告げてきた。契約上、何ヶ月前に通知すべきかという条項がそもそもなかったため、会社側は準備期間をほとんど取れなかった。
- 個人開発者が体調を崩して長期入院。本人しかシステムの構造を把握していなかったため、代わりに直せる人を探すのに半年以上かかった。こうした事態が起きたときに困るのは、「システムの中身を知っている人間が、世界にその個人一人しかいない」という構造そのものです。法人であれば、少なくとも社内で引き継ぎができますが、個人開発者一人に依存している状態は、事業継続の観点から見ると非常に脆弱です。こうした「唯一の担当者と連絡が取れなくなった」状態は、システム引き継ぎ・レスキュー(運営会社ゼットリンカーの受託メニュー)が専門に扱う領域でもあります。
リスク2:ドキュメント・ソースコードの管理がずさんになりやすい
個人開発者やフリーランスは、法人の開発会社ほど厳密なドキュメント文化・品質管理体制を持たないことが多いです。仕様書や設計書をきちんと作らず、「口頭で聞いた内容をそのままコードに落とす」という進め方をする人も少なくありません。これは悪意があるわけではなく、単に一人で開発を回している以上、ドキュメント作成に十分な時間を割けない、という構造的な理由によるものです。
その結果、後から別のエンジニアに引き継ごうとしたときに、「なぜこの仕様になっているのか分からない」「ソースコードにコメントが一切なく、読み解くだけで数週間かかる」という事態が頻発します。先代から会社を引き継いだあなたが、まさに今、先代の時代のシステムに対して感じている「これ、誰が何のために作ったんだろう」という困惑を、次の後継者にもう一度体験させてしまうことになりかねません。
リスク3:契約・法務面が緩い
法人の開発会社であれば、契約書のフォーマットが整備されており、知的財産権の帰属、秘密保持、損害賠償の範囲などが明文化されていることが一般的です。一方で、個人開発者・フリーランスとの取引は、「見積もりメールと口頭の約束だけで発注してしまう」というケースが非常に多く見られます。
特に注意すべきなのは、作ってもらったシステムの著作権やソースコードの権利が、発注者である会社側にきちんと帰属しているかどうかです。契約書がないまま発注してしまうと、後になって「このソースコードは自分が作ったものだから、勝手に別の業者に渡さないでほしい」と個人開発者本人から主張されるトラブルに発展することがあります。逆に、個人開発者側から見ても、成果物の範囲や支払い条件が明確でないと、「言われた通りに作ったのに、後から追加要望ばかり来て、報酬が増えない」という不満が募り、関係が悪化する原因になります。なお、こうした業務委託型の取引には請負契約という契約形態が使われることが一般的ですが、個人開発者・フリーランスとの取引では、この契約自体を結ばずに始めてしまうケースが承継後の会社では特に目立ちます。先代の時代から「あの人とはずっと口約束でやってきたから」という慣習がそのまま続いてしまっているのです。契約形態そのものの違いは請負契約と準委任契約、何がどう違うのかで整理している。
リスク4:セキュリティ管理の水準が不明確
法人の開発会社であれば、情報セキュリティに関する社内規程やISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)の認証を持っている場合があり、顧客情報や機密情報の取り扱いについて一定の水準が期待できます。個人開発者・フリーランスの場合、こうした管理体制が個人の意識レベルに依存しており、会社としてのセキュリティポリシーが存在しないことも多いです。
たとえば、顧客の個人情報を含むデータベースへのアクセス権限を、個人開発者の私物パソコン一台に集約してしまっているケースもあります。そのパソコンが盗難や紛失にあった場合、情報漏洩のリスクが一気に高まります。事業承継後の会社が、取引先や顧客からの信頼を維持していくためには、この点は特に慎重に確認すべきポイントです。
リスク5:スケールする開発には向かない
個人開発者やフリーランスは、基本的に「一人でできる範囲」でしか仕事を受けられません。会社の事業が成長し、システムの規模が大きくなってきた場合、一人のエンジニアの手が回らなくなる場面が必ず来ます。そのときに、「今まで頼んでいた個人開発者に、もっと大きな仕組みを作ってもらう」ということが難しく、結局は法人の開発会社に切り替えざるを得なくなります。この切り替えのタイミングで、既存システムのソースコードやドキュメントの引き継ぎがうまくいかず、二重にコストがかかってしまう、というのはよくある失敗パターンです。
リスク6:価格交渉や進行管理の「ゆるさ」がトラブルの種になる
個人開発者との取引は、良くも悪くも「人間関係」がベースになっていることが多いです。これはメリットとして働くこともありますが、裏を返せば、進行管理や納期の管理が「なんとなく」で進んでしまうリスクでもあります。法人の開発会社であれば、プロジェクト管理のフォーマットに基づいて、進捗が可視化されることが一般的ですが、個人開発者の場合、「今どこまで進んでいるのか」を発注者側が把握しづらいことがあります。
「順調に進んでいます」という報告だけを信じて数ヶ月待っていたら、実は全く手つかずだった、という笑い話のような、しかし実際に起きているトラブルも珍しくありません。個人開発者本人に悪意がなくても、他の案件が立て込んでいたり、優先順位を後回しにされてしまったりすることは十分にあり得ます。こうした納期の遅れが起きる構造そのものは、なぜ開発は遅れるのか。承継社長が押さえる納期・スケジュールの見方で解説している。
個人開発者・フリーランスへの発注が「向いている」ケース
ここまでリスクを中心に見てきましたが、すべての場面で個人開発者・フリーランスへの発注が不適切というわけではありません。以下のようなケースでは、むしろ個人開発者・フリーランスに頼む方が合理的です。
ケース1:小規模で単発の改修・修正
既存システムの見た目をちょっと変えたい、入力フォームに項目を一つ追加したい、といった小規模で単発の作業であれば、個人開発者に頼むメリットの方が大きくなります。法人の開発会社では、こうした小さな仕事は「最低発注金額」の関係で受けてもらえないことも多く、個人開発者の柔軟さが活きる場面です。
ケース2:社内に「システムに強い人」がいて、内容を理解・管理できる
もしあなたの会社に、システムの内容を理解し、個人開発者とのやり取りをきちんと管理できる社員(あるいはあなた自身)がいるのであれば、リスクをある程度コントロールできます。ドキュメントを作らせる、ソースコードを定期的に提出させる、契約書を整備する、といった対策を自社側で主導できるのであれば、個人開発者に頼むことのリスクは大きく下がります。
ケース3:プロトタイプや検証段階の開発
「このアイデアが本当に業務改善につながるのか、まずは試してみたい」というプロトタイプ的な開発であれば、個人開発者のスピード感と低コストは大きな利点になります。本格的な投資判断をする前の検証段階として、個人開発者に小さく作ってもらい、うまくいきそうであれば法人の開発会社に本格開発を依頼する、という二段階のアプローチも有効です。
ケース4:既に信頼関係が構築できている場合
先代の時代から長年付き合いのある個人開発者で、これまでのやり取りの中で「この人はきちんと責任を持って対応してくれる」という信頼関係が既に構築できている場合は、必ずしも切る必要はありません。ただし、その場合でも、後述するリスク対策(バックアップ体制の確保、契約の明文化など)は別途講じておくべきです。信頼関係と、事業継続のためのリスク管理は、両立させるべき別の話です。
個人開発者・フリーランスへの発注が「向いていない」ケース
一方で、以下のようなケースでは、個人開発者・フリーランスへの発注は避けるべきです。
ケース1:会社の基幹システム・売上に直結するシステム
受発注管理、在庫管理、顧客管理といった、会社の売上や事業継続に直結する基幹システムを、個人開発者一人に依存させることは非常に危険です。前述の「蒸発リスク」が現実化した場合、会社の事業そのものが止まってしまう可能性があります。基幹システムについては、法人の開発会社との契約や、複数人体制での保守を検討すべきです。
ケース2:社内にシステムの内容を理解できる人が誰もいない
後継社長自身も、社内の誰もシステムの内容を理解していない状態で、個人開発者に丸投げしてしまうと、その個人開発者が唯一のシステムの理解者になってしまいます。これは先代の時代の「あの業者に任せておけば大丈夫」という構図を、より脆弱な形で再現しているだけです。承継後は、少なくとも社内の誰か一人が、システムの概要を把握できる状態を作っておくべきです。
ケース3:長期にわたる継続的な開発・保守が必要な場合
数年単位で継続的に機能を追加していく必要があるシステムの場合、個人開発者一人の稼働時間やライフステージの変化(結婚、育児、体調、他の仕事への転職など)に事業の継続性が左右されてしまいます。長期的な視点が必要なプロジェクトほど、法人としての継続性がある開発会社に依頼する方が安全です。
ケース4:個人情報や機密情報を大量に扱うシステム
顧客の個人情報、取引先の機密情報などを大量に扱うシステムを個人開発者に任せる場合、情報管理体制のチェックが不十分だと、情報漏洩のリスクが会社の信用問題に直結します。特にBtoBの取引先から「情報セキュリティ体制について報告してほしい」と求められることが増えている業種では、個人開発者への発注自体が取引先の審査に引っかかる可能性もあります。
個人開発者・フリーランスに発注する場合の必須チェックリスト
「向いているケース」に該当し、実際に個人開発者・フリーランスへ発注する場合でも、以下のチェックリストを必ず確認してください。
契約面のチェックリスト
- 契約書(業務委託契約書など)を必ず作成しているか。口頭やメールのやり取りだけで発注していないか
- 成果物(ソースコード、ドキュメントなど)の著作権・知的財産権が、発注者である会社側に帰属することが契約書に明記されているか
- 秘密保持に関する条項があるか。会社の機密情報や顧客情報の取り扱いについてルールが定められているか
- 契約解除・契約終了時の引き継ぎ義務が定められているか。個人開発者側の事情で契約を終了する場合、事前通知の期間や引き継ぎ方法が明記されているか
- 支払い条件(前払い・後払い、分割の有無)が明確になっているか
- 追加要望が発生した場合の追加費用の考え方について、あらかじめ合意が取れているか
技術・運用面のチェックリスト
- ソースコードは、個人開発者の私物環境ではなく、会社が管理できるクラウド上のリポジトリ(GitHubなど)で管理されているか
- ソースコードへのアクセス権限を、会社側も持っているか(個人開発者のアカウントに依存していないか)
- サーバーやドメイン、SSL証明書などのインフラ関連の契約は、会社名義で契約されているか(個人開発者名義になっていると、契約変更や解約時に本人の協力が必須になり、蒸発リスクが直接影響する)
- 仕様書やドキュメントが最低限は整備されているか。「システムの全体像を書いた1枚の資料」だけでも作ってもらうべき
- 定期的に(月1回など)進捗や課題を報告してもらう仕組みがあるか
- パスワードやAPIキーなどの認証情報を、会社側でも安全に管理・把握できているか
バックアップ体制のチェックリスト
- その個人開発者が突然対応できなくなった場合、代わりに依頼できる別のエンジニアや開発会社に、最低限の心当たりがあるか
- システムの構成やデータベースの内容について、社内の誰か一人が概要を把握しているか
- 定期的にデータのバックアップを取得し、会社側でも保管しているか(個人開発者のサーバーにしかデータがない、という状態は避ける)
よくある失敗パターンとその教訓
失敗パターン1:先代の代からの「あの人」に、承継後も何の確認もなく発注を続けてしまう
先代が個人的な信頼関係で発注していた個人開発者との取引を、後継社長が内容を精査せずにそのまま継続してしまうケースです。承継直後は他の業務に手一杯で、システム関連の見直しは後回しになりがちですが、契約書の有無やソースコードの権利関係を確認しないまま数年が経過し、いざ見直そうとしたときにはすべてが不明瞭になっている、というパターンが典型的です。承継後、半年以内を目安に、既存のシステム関連取引をすべて棚卸しすることをお勧めします。
失敗パターン2:「安いから」という理由だけで、基幹システムまで個人開発者に発注してしまう
コストの安さに目を奪われて、本来であれば法人の開発会社に依頼すべき基幹システムまで、個人開発者に発注してしまうケースです。開発時点では順調に進んでも、事業が成長してシステムの規模が大きくなった段階で、個人開発者一人では対応できなくなり、結局法人の開発会社に切り替えることになります。切り替えの際、既存システムのソースコードが整理されておらず、ドキュメントもないため、ゼロから作り直すのと同じくらいのコストがかかってしまうこともあります。
失敗パターン3:契約書なしで発注し、後からトラブルになる
「知り合いだから大丈夫」という安心感から、契約書を作らずに発注を始めてしまうパターンです。開発が進む中で追加要望が増え、当初の見積もりから大きく外れた金額になったとき、「言った」「言わない」の水掛け論になり、関係が悪化することがあります。金額の大小に関わらず、業務委託である以上、最低限の契約書は作成すべきです。
失敗パターン4:個人開発者に依存しすぎて、蒸発後に業務が止まる
前述の通り、これが最も深刻な失敗パターンです。個人開発者との関係が良好だったがゆえに、バックアップ体制を全く考えていなかった会社が、その個人開発者の突然の連絡不通によって、システムの改修も保守も一切できない状態に陥り、業務に支障が出たケースが実際にあります。良好な関係であっても、「もしこの人と連絡が取れなくなったら」という前提でのリスク管理は別途必要です。
失敗パターン5:セキュリティ体制の確認を怠り、取引先の審査で引っかかる
BtoBの取引先が増えるにつれて、自社の情報セキュリティ体制について取引先から確認を求められる場面が増えています。個人開発者に丸投げしていたシステムについて、セキュリティ体制の詳細を説明できず、取引先との契約更新に支障が出た、というケースも報告されています。承継後、取引先との関係が拡大するフェーズにある会社ほど、この点への注意が必要です。
個人開発者・フリーランスと法人の開発会社、どう使い分けるか
結論として、個人開発者・フリーランスへの発注は「あり」ですが、無条件にありなわけではありません。以下のような使い分けの発想を持つことをお勧めします。
まず、会社の売上や事業継続に直結する基幹システムは、法人の開発会社に依頼するか、少なくとも複数人体制で保守できる形を確保します。一方で、既存システムへの小規模な改修や、新しいアイデアのプロトタイプ的な検証は、個人開発者・フリーランスに柔軟に依頼する、という二段構えの体制が、コストとリスクのバランスとして現実的です。
また、承継直後の後継社長にとって重要なのは、「先代の時代の慣習をそのまま引き継ぐのではなく、一度すべての取引を自分の目で見直す」という姿勢です。個人開発者との取引が長年続いているからといって、それが今も最適な選択であるとは限りません。逆に、法人の開発会社との契約が高額だからといって、すべてを個人開発者に切り替えることが正解とも限りません。それぞれの取引について、契約内容、リスクの所在、事業への影響度を一つずつ確認し、自社にとって適切な発注先を選び直すプロセスこそが、承継後のシステム関連業務における最初の重要な仕事だと言えます。発注先を選び直す前に社内で決めておきたいことは、刷新を開発会社に相談する前に、決めておきたい3つのことにまとめている。
よくある質問(FAQ)
Q1. 個人開発者に発注するとき、契約書のフォーマットはどう用意すればいいですか
特別なフォーマットは必要ありませんが、最低限「業務内容」「成果物の範囲」「金額と支払い条件」「知的財産権の帰属」「秘密保持」「契約解除の条件」の6項目は明記してください。ひな形はインターネット上に多数公開されていますが、金額が大きい取引や機密情報を扱う場合は、一度顧問弁護士や商工会議所の無料相談などを利用してチェックしてもらうことをお勧めします。数万円程度の顧問料で、大きなトラブルを未然に防げることを考えれば、決して高い投資ではありません。
Q2. 今、個人開発者に基幹システムを任せてしまっています。今すぐ切り替えるべきですか
必ずしも即座に切り替える必要はありませんが、まずリスクの棚卸しを行ってください。ソースコードやドキュメントが整理されているか、会社側でもアクセス権限を持っているか、契約書があるかを確認し、不足している部分から段階的に整備していくのが現実的です。すべてを一度に法人の開発会社に切り替えると、移行コストと開発の空白期間が発生するリスクもあるため、まずは「今の個人開発者との取引を、リスク管理された形に整える」ことを優先してください。
Q3. 個人開発者とフリーランスエンジニアは同じものですか
厳密には少し違います。個人開発者は、自分自身のアイデアやサービスを開発・運営している人を指すことが多く、フリーランスエンジニアは、企業からの依頼を受けて開発を行う個人事業主を指すことが一般的です。ただし、実務上はどちらも「法人ではない個人」として発注する対象であることに変わりはなく、この記事で述べたメリット・リスクは基本的に両者に共通します。
Q4. 個人開発者への発注と、法人の開発会社への発注、金額差はどれくらいありますか
案件の内容や規模によって大きく異なるため一概には言えませんが、同じ工数であれば、個人開発者の方が法人の開発会社より2割から5割程度安くなる傾向があると言われています。ただし、この金額差は品質やアフターサポートの手厚さの差でもあることを理解しておく必要があります。安いからといって単純に得だと判断せず、事業継続のリスクや保守の安定性も含めたトータルコストで比較検討することが重要です。
まとめ
個人開発者・フリーランスへの発注は、コストの安さやスピード感という明確なメリットがある一方で、事業継続の観点からは「蒸発リスク」「ドキュメント不備」「契約の緩さ」「セキュリティ管理の不透明さ」といった、法人の開発会社に発注する場合とは異なる種類のリスクを抱えることになります。承継後の後継社長にとって重要なのは、これらのリスクを正しく理解した上で、小規模な改修やプロトタイプ開発には個人開発者を活用し、基幹システムのような事業継続に直結する部分は法人の開発会社や複数人体制で保守する、という使い分けの判断を自分自身で行うことです。先代の時代の慣習をそのまま引き継ぐのではなく、一度すべての取引内容を棚卸しし、契約書の整備やバックアップ体制の確保といった基本的な対策を講じておくことが、これからの会社経営を安定させる土台になります。
