先代が20年以上付き合ってきた地元のシステム会社から、「来年の3月で会社をたたむことにしました」と連絡が来る。あるいは「事業をA社に譲ることになりました。今後はA社が窓口になります」という案内が届く。相手の社長は先代と同年代で、いつかこうなることは薄々わかっていた。それでも、販売管理や給与計算のように毎日使っているシステムの保守を誰が引き継ぐのかは、通知を受けてから考え始めることになりがちです。
この記事は2026年10月6日時点で、東京商工リサーチの公表資料と、民法・会社法の条文(e-Gov法令検索)を確認して書いています。
先に要点をまとめます。
- 通知を受けた日から相手の最終営業日までが、資料とデータを受け取れる期間です。 連絡が取れなくなってからでは、同じものを集めるのに何倍も手間がかかります。最初の1週間で「何を受け取るか」の一覧を作って相手に渡します
- 契約がどうなるかは、通知の種類で変わります。 合併なら契約は存続する会社に引き継がれます。事業譲渡では、契約は自動では移らず、こちらの承諾が要ります。廃業なら、保守契約はいずれ終わる前提で次の引き継ぎ先を探します
- 受け取るものの中で抜けやすいのが「保守で毎年やってもらっていた作業の一覧」です。 ソースコードやデータがそろっていても、年に一度のマスタ更新や月末の処理を誰がやっていたかが分からないと、次の会社に頼む範囲を決められません
どんな通知を受けた会社向けか
- 先代の代からのシステム会社(または個人で開発している技術者)から、廃業・事業譲渡・合併・担当者の引退のいずれかを知らされた
- 相手の会社は小規模で、システムの中身を知っているのは社長か担当者1人だけ
- 保守契約は結んでいるが、契約書を最後に読んだのがいつか分からない
- 先代と相手の社長の付き合いで成り立ってきた取引で、承継した自分は相手とあまり話したことがない
すでに相手と連絡が取れなくなっている場合は先代の代からの開発会社と連絡が取れなくなったとき、まず確認すべき3つのことを、倒産していた場合は先代が契約していた開発会社が倒産していた。ソースコードがない場合の選択肢を先に読んでください。この記事は、相手がまだ連絡に応じてくれる期間に何をするかを扱います。
取引先のシステム会社の廃業は、どのくらい起きているのか?
東京商工リサーチの調査では、2025年の休廃業・解散は6万7,210件で、産業別で増加率が最も高かったのは情報通信業でした。
東京商工リサーチが2026年1月9日に公表した調査によると、2025年に休業・廃業・解散した企業は6万7,210件(前年比7.2%増)でした。産業別では情報通信業が4,189件(同15.2%増)で、増加率が最も高くなっています。休廃業した企業の代表者は60代以上が90.6%、80代以上が34.0%でした(東京商工リサーチ「過去最多の6.72万件、赤字企業率は47.2% 代表者60代以上の退出が加速」)。
倒産の側でも、同社が2026年7月14日に公表した集計では、2026年上半期の「情報サービス業」の倒産は166件(前年同期比18.5%増)で、従業員5人未満が135件と8割を占めました。同社は背景として、ノーコード・ローコードツールや生成AIの普及で簡易な開発業務の内製化が進み、価格競争に依存していた小規模事業者に逆風が強まっていると分析しています(東京商工リサーチ「2026年上半期の『情報サービス業』倒産 166件 過去10年で最多」)。
情報通信業にはシステム会社以外も含まれるため、この数字がそのまま「取引先のシステム会社が廃業する確率」を示すわけではありません。ただ、代表者が高齢の小さな会社に保守を頼んでいる会社にとって、相手の廃業は珍しい話ではなくなっています。先代と同世代の社長が1人で支えている取引先がある場合は、この記事の手順を通知が来る前の点検に使うこともできます。
通知の種類によって、契約はどうなるのか?
合併なら契約は存続する会社に引き継がれ、事業譲渡ならこちらの承諾を経て移ります。廃業なら保守契約は終わる前提で、引き継ぎ先を自分で探します。
「会社をたたむ」「事業を譲る」「別の会社と一緒になる」は、どれも相手の事情ですが、こちらの契約への影響は同じではありません。まず通知の文面で、どれに当たるかを確かめます。
| 通知の種類 | 契約の扱い(条文上の原則) | こちらがやること |
|---|---|---|
| 合併(吸収合併) | 存続する会社が、消滅する会社の権利義務を引き継ぐ(会社法750条) | 新しい窓口・請求元・担当者を確認する。保守の担当者が変わるかを聞く |
| 事業譲渡 | 契約上の地位は、相手方(こちら)が承諾したときに移る(民法539条の2) | 譲渡先と条件を確認してから承諾するか決める。新しい契約書を結び直すことが多い |
| 廃業・解散 | 契約は、契約書の解約・終了の条項に沿って終わる | 最終営業日を確認し、資料・データの受け取りと引き継ぎ先探しを並行して進める |
| 担当者の引退(会社は続く) | 契約は変わらない | 後任の担当者が中身を把握しているかを確認する。把握していなければ廃業と同じ準備をする |
民法539条の2は「契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした場合において、その契約の相手方がその譲渡を承諾したときは、契約上の地位は、その第三者に移転する」と定めています。事業譲渡の案内に「今後はA社が対応します」と書かれていても、こちらが承諾するまでは、保守の条件をそのまま引き継ぐとは限りません。料金や対応範囲が変わることもあるため、承諾の返事をする前に譲渡先の契約書の案を見せてもらいます。
会社分割など、ここに挙げていない形の再編もあります。契約書に「地位の譲渡」や「解約」の条項があるかどうかで扱いが変わるため、取引額が大きいシステムや、違約金の条項がある契約は、顧問弁護士に通知と契約書を見てもらってから返事をしてください。契約書の名義や地位の承継条項の読み方は、先代の代からのライセンス契約、名義変更で困らないための確認事項で扱っています。
通知を受けてから、何をどの順番で進めるか?
最初の1週間で受け取るものの一覧を作って相手に渡し、最終営業日までに受け取りと引き継ぎ先の決定を済ませます。終わった後は、受け取ったもので本当に動かせるかを確かめ、旧契約の支払いと自動更新を止めます。
相手の会社が廃業するまでの期間は、数か月のこともあれば1か月を切ることもあります。最初に「最終営業日はいつか」「その日まで保守の問い合わせに応じてもらえるか」を確認し、そこから逆算します。
相手にとっても、廃業の準備は片付けの作業が重なる時期です。こちらから受け取りたいものを一覧にして渡すと、相手は何を探せばよいかが分かり、やり取りの回数も減ります。口頭で「資料をもらえますか」と頼むだけでは、手元にある紙の資料だけが届いて終わることがあります。
最終営業日までに、何を受け取っておくか?
ソースコードと設計資料、データ、管理者のIDと名義、それに「保守で毎年やっていた作業」の一覧の4つです。最後の一覧は相手しか知らないことが多く、いちばん後回しにされがちです。
| 受け取るもの | 具体的に何か | 抜けたときに起きること |
|---|---|---|
| ソースコード・設計資料 | プログラム一式、画面や帳票の設計書、データベースの項目一覧。契約上の権利の扱いも確認する | 次の会社が改修できず、作り直ししか選べなくなる |
| データ | 取引先・商品・社員などのマスタと、過去の取引データ。CSVなど別のソフトで開ける形式で | 新しいシステムへ移すときに、画面から手で写すことになる |
| 管理者のIDと名義 | サーバー、ドメイン、データベース、クラウドの管理者アカウント。名義が相手の会社になっていないか | 相手の会社がなくなった時点で、更新や解約ができなくなる |
| 毎年・毎月の作業の一覧 | 月末の締め処理、年1回の税率や単価のマスタ更新、バックアップの取得、OSの更新など、保守の中で相手がやっていたこと | 次の会社に頼む範囲が決められず、締めの時期になって初めて誰もやっていないことに気づく |
データを受け取るときは、ファイルを受け取って終わりにせず、相手がいるうちに社内の別のパソコンで開いてみます。文字化けしていないか、件数が画面の表示と合っているかを確認しておくと、後で問い合わせ先がなくなってから困ることを減らせます。データを取り出せる状態にしておく考え方はデータポータビリティと呼ばれ、契約書の段階で決めておくのが本来の形です。今回は後追いになりますが、受け取る形式を指定しておけば、後から別のシステムへ移せる状態に近づけます。
ソースコードの権利がどちらにあるかは、契約書と納品物で確認します。手順は先代システムのソースコードの権利は誰にあるか、納品物から確認する方法にまとめています。
「毎年の作業」は、相手と一緒に1年分を書き出す
先代の代からの付き合いでは、「年度が替わったら電話して単価表を入れ替えてもらう」「年末調整の前に来てもらう」といった作業が、契約書に書かれないまま続いていることがあります。先代や古参の担当者は電話一本で頼んでいたため、社内にはその作業の記録が残っていません。
相手の担当者と1時間ほど時間を取り、カレンダーを1月から12月まで順にめくりながら「この月に何をしていたか」を聞いて書き出すと漏れが減ります。書き出した一覧は、次の会社に保守を頼むときの見積もりの前提になります。
引き継ぎ先は、どう決めるか?
譲渡先にそのまま任せる、別の会社に保守を移す、データだけ救出して作り直す、の3つから選びます。使い続ける年数と、受け取れた資料の量で決めます。
| 選択肢 | 向いている条件 | 気をつけること |
|---|---|---|
| 譲渡先・合併先にそのまま任せる | 譲渡先に元の担当者が移る。料金と対応範囲の条件が今と大きく変わらない | 元の担当者が移らない場合は、実質的に新しい会社に頼むのと同じになる |
| 別の会社に保守を移す | ソースコードと設計資料を受け取れた。あと数年は今のシステムを使う予定 | 古い開発言語や環境だと、引き受けられる会社が限られる。見積もりの前に資料を見てもらう |
| データだけ救出して作り直す | ソースコードが受け取れない。OSや機器のサポートがすでに切れている | 作り直しには時間がかかる。救出したデータで当面の業務を回す方法も同時に決める |
別の会社に保守を移す場合は、相手の最終営業日より前に次の会社を決め、引き継ぎの打ち合わせに立ち会ってもらうのが理想です。書類で渡すだけでは伝わらない設定や癖を、元の担当者から直接聞けるからです。乗り換えのときに渡す資料の一覧は開発会社の乗り換え手順、承継を機に整理する引き継ぎ資料一覧、データだけを先に確保する手順は先代のレガシーシステム、壊れる前にデータだけ救出する方法で扱っています。
この場面は、システムの刷新を考えるきっかけにもなります。ただ、廃業の期日に合わせて急いで作り直しを決める必要はありません。まずは保守の空白を作らないことを優先し、作り直すかどうかは受け取った資料を見てから判断しても間に合います。
先代には、いつ、どう伝えるか?
通知を受けたらすぐに先代に知らせ、相手の社長への声かけを頼みます。資料の受け取りは、先代と相手の付き合いがあるほうが進みやすいからです。
先代の代からの取引では、相手の社長と話してきたのは先代で、承継した自分は請求書の宛名でしか相手を知らないことがあります。廃業を決めた相手の社長にとって、最後の数か月に資料の整理を頼まれるのは負担です。先代から「長い間ありがとう。最後にこれだけ渡してもらえると助かる」と一言あるかどうかで、相手の協力の度合いが変わることがあります。
先代に頼むのは声かけまでにして、受け取るものの一覧や確認の段取りは自分か社内の担当者が持ちます。先代に全部を任せると、受け取った資料が先代の手元に残り、また誰も把握していない状態に戻ってしまいます。
受け取ったものは、承継したらまず作る、システム管理台帳のテンプレートの台帳に、システムごとに「保守の担当会社」「資料の保管場所」「毎年の作業」として記録しておきます。システム管理台帳に残しておけば、次に担当会社が変わるときに同じ作業を最初からやり直さずに済みます。
今週やること
- 通知の文面を読み直し、廃業・事業譲渡・合併・担当者の引退のどれに当たるかと、最終営業日を書き出す。 文面で分からなければ、相手に電話で確認します
- この記事の「受け取るもの」の表をもとに、相手に渡す一覧を作る。 自社のシステムごとに、何が手元にあって何が無いかを先に確認しておくと、依頼する量を絞れます
- 先代に通知のことを伝え、相手の社長への声かけを頼む。 事業譲渡や違約金の条項が絡む場合は、同じ週に顧問弁護士へ契約書を見てもらう日程も決めます
