承継1年目のどこかで、必ず小さなシステムトラブルに遭遇する。「レジの印刷がずれる」「先代が作ったExcelの関数がエラーを出す」「発注システムの画面が固まる」——こうした場面で、多くの新社長は一瞬迷う。自分で触ってみるべきか、それとも開発会社やベンダーに連絡すべきか。

この判断を誤ると、二つの方向で損をする。一つは、知識のないまま自己判断で触ってしまい、かえって状態を悪化させるケース。もう一つは、些細な不具合まで逐一外部に問い合わせて、対応コストと時間を無駄にするケースだ。どちらに転ぶかは、不具合の性質を見極められるかどうかにかかっている。

分かれ目は「業務データに触れるか」

最初の判断基準はシンプルだ。その不具合の対処が、業務データ(顧客情報、受発注データ、会計データなど)の書き換えや削除を伴うかどうかを見る。

業務データに触れない不具合の例

  • 帳票の印刷位置がずれる
  • 画面の表示が崩れる、文字化けする
  • 特定の操作でアプリが固まる(再起動で直る)
  • Wi-Fiが不安定で接続が切れる

こうした症状は、多くの場合データそのものには影響しない。「パソコンが遅い」問い合わせへの対処フロー、非IT社長の初動社内Wi-Fiが不安定なとき、承継社長が調査すべき手順にあるように、再起動や基本的な確認手順で解決することが多く、この範囲であれば自分や社内の担当者で対処を試みてよい。先代のExcel帳票の印刷ズレ問題を根本解決する方法のように、原因と対処法が明確な不具合も同様だ。

業務データに触れる不具合の例

  • 台帳データの一部が消えた、重複した
  • 受発注データの数字が合わなくなった
  • システムが「保存できません」というエラーを出す

この種の不具合は、原因を誤って推測したまま手を入れると、データの復旧そのものが不可能になるリスクがある。知識ゼロの状態で触るのは避け、まずは何もせずに現状を保存(可能ならバックアップを取得)し、開発会社やベンダーに連絡する。

二つ目の分かれ目: 「原因が特定できているか」

承継1年目、システムの不具合は自分で直すか開発会社に投げるか

業務データに触れない不具合であっても、原因がまったく分からない場合は自己判断の範囲を広げすぎないほうがいい。

原因が明確で、対処法もパターン化されている不具合(印刷ズレ、動作の重さなど)は自分で対処してよいが、「なぜ起きているか分からないが、とりあえず動いている」という状態のまま様子見を続けるのは危険だ。誰が作ったか分からない先代由来のExcel関数の解読方法誰も触れない先代由来のバッチ処理の正体を突き止める方法にあるように、先代の代からのシステムはブラックボックス化していることが多く、「動いているから触るな」と言われてきた部分に軽い気持ちで手を入れると、想定外の連鎖的な不具合を招くことがある。

外部に投げる場合のコスト感

開発会社に相談すべきと判断した場合、承継1年目の段階では大掛かりな契約変更は必要ない。多くの場合、追加開発の頼み方。小さな改修を安く早く進めるコツにあるように、既存の保守契約の範囲内、あるいはスポットの追加費用で対応してもらえることが多い。ここで焦って開発会社を乗り換えたり、大きな刷新プロジェクトを持ちかけたりする必要はない。承継1年目はまだ「開発会社との関係性を見極める期間」でもあるからだ。

もし先代の代からの開発会社への連絡自体が難しい状況(連絡が取れない、対応が遅いなど)であれば、先代の代からの開発会社と連絡が取れなくなったとき、まず確認すべき3つのことを参考に、まず状況を整理することから始めたい。

まとめ: 触ってよいのは「データに触れず、原因が分かるもの」だけ

承継1年目に遭遇する不具合は、そのすべてを自分で対処しようとする必要も、そのすべてを外部に丸投げする必要もない。「業務データに触れるか」「原因が特定できているか」の2軸で見て、両方とも安全側であれば自分や社内で対処し、どちらか一つでも不安があれば外部に相談する。この線引きさえ持っておけば、承継直後の「よく分からないまま判断を迫られる」場面での迷いは大きく減る。

こうした小さな不具合対応を重ねながら、並行して承継したらまず作る、システム管理台帳のテンプレートへの記録も続けておくと、次に同じ不具合が起きたときの対応スピードが上がる。