「まだ大丈夫」が一番危ない
承継1年目、システムまわりで最も名前が挙がる不安要素の一つが、古参の担当者です。先代の時代から会計や受発注、社内システムの面倒を一人で見てきたベテラン社員が、実は一番の「単一障害点」になっているケースは少なくありません。その人が休んだり辞めたりした瞬間に、業務が止まる。多くの社長は頭では分かっていながら、日々の業務に追われて対応を先送りにしてしまいます。
やっかいなのは、この手の属人化リスクは「まだ大丈夫」に見え続けることです。古参担当者が元気に働いている限り、問題は表面化しません。だからこそ、1年目のうちに「もしこの人が急にいなくなったら、まず何をするか」という初動を決めておく必要があります。実際に起きてから考え始めるのでは遅いのです。
この記事では、1年目のどの時点までにこの初動を決めておくべきか、時系列に沿って整理します。
判断の分かれ目は「属人化の所在が分かっているか」
初動を決める前に、まず自社にとっての「その人」が誰で、何を担っているかを把握しておく必要があります。ここで1年目は大きく2つの状態に分かれます。
パターン1: 誰がどの業務を一人で担っているか、すでに把握している
この場合、初動の手順を決める準備はもう整っています。次に説明する「初動リスト」の作成に、すぐにでも着手すべきです。
パターン2: まだ誰が何を一人で担っているか、はっきり把握できていない
この場合は、初動を決める前に、まず属人化の所在を洗い出す作業が先です。属人化した先代システムを防ぐ、承継後の管理台帳の作り方 を参考に、「この業務は誰が」「その人がいないと何が止まるか」を一覧化するところから始めます。
この洗い出しは、遅くとも承継から半年以内には着手しておきたいところです。半年を過ぎても洗い出しが手つかずのままだと、初動を決める土台がないまま1年目が終わってしまいます。
半年〜1年目終盤:初動リストを言語化する
属人化の所在が見えてきたら、半年目以降のどこかで、「その人が急にいなくなったときの初動」を具体的に言葉にしておきます。最低限、次の3つを決めておくとよいでしょう。
- 誰に連絡するか — 本人以外に事情を知っている人(家族、前任者、外部ベンダーなど)がいるか
- 何から確認するか — 止まって困る業務の優先順位(給与計算・請求書発行・受発注など)
- 誰が代わりに動くか — 社内の誰が、あるいはどの外部窓口が緊急対応を引き受けるか
特に見落とされやすいのが、その担当者しか触れないバッチ処理やマクロの存在です。誰も触れない先代由来のバッチ処理の正体を突き止める方法 にあるように、日次・月次で自動的に動いている処理は、担当者が不在になった瞬間に「誰も止め方も直し方も分からない」状態に陥りがちです。この種の処理がある場合は、初動リストの中に「まず何を止めない/止めるか」を明記しておく必要があります。
この初動リストの言語化は、遅くとも1年目の後半、10〜11ヶ月目までには一度形にしておきたい作業です。1年目の終盤は、日々の緊急対応にもある程度目処がついている時期でもあるため、腰を据えて取り組みやすいタイミングでもあります。
引き継ぎ書がない場合の緊急対応も並行して用意する
古参担当者からの正式な引き継ぎ書が存在しない会社も少なくありません。この場合は、初動リストと合わせて、引き継ぎ書ゼロで先代が退いた。今から緊急で作るべき資料一覧 を参考に、最低限の資料を今のうちから作っておくことをおすすめします。
ポイントは、「本人が元気なうちに、雑談レベルでいいので聞き出しておく」ことです。改まったヒアリングの場を設けると身構えられてしまうこともあるため、日常の会話の延長で「これ、もし〇〇さんが休んだら誰が分かるんですか」と聞いておくだけでも、いざというときの手がかりになります。
また、こうした聞き取りを一度きりで終わらせず、日々の気づきを記録に残す習慣も並行して作っておくと安心です。引き継ぎ書がない会社が承継後すぐに始めるシステム記録術 は、その記録を仕組み化するための考え方を扱っています。
決めるタイミングを逃さないための目安
ここまでの内容を時系列にまとめると、次のようになります。
| 時期 | やること |
|---|---|
| 承継〜半年目 | 属人化の所在を洗い出す(誰が何を一人で担っているか) |
| 半年目〜10ヶ月目 | 初動リスト(連絡先・優先業務・代替対応者)を言語化する |
| 並行して随時 | 引き継ぎ書がない場合の緊急資料を、雑談レベルで聞き出しておく |
| 1年目終盤 | 初動リストを見直し、Stage2以降の属人化解消計画につなげる |
不測の事態は、予告なく起こります。だからこそ「もう少し落ち着いたら」ではなく、1年目のうちに区切りを決めて着手することが重要です。半年目までに所在を掴み、10ヶ月目までに初動を言葉にしておく——この2つの区切りを意識しておくだけで、実際に何かが起きたときの落ち着き方がまったく変わってきます。
さらに詳しく知りたいときは
属人化リスクへの対応は、以下のコラムでも詳しく扱っています。
