「全部署を回る」が終わらないまま1年目が過ぎる会社がある
従業員100人を超える会社を承継すると、規模の小さい会社とはまったく違う種類の壁にぶつかる。小規模な会社なら「誰か1人に聞けば大体分かる」という状態を数週間で作れるが、100人超になると部署ごとにシステムが分断していて、営業部が使っているシステムのことを製造部の人間は知らない、経理部の運用は経理部の中でしか通用しない、というのが当たり前になる。
この構造を理解しないまま、思いつくままに部署を訪ねて回ると、1年目が終わっても全部署のヒアリングが終わっていない、という事態が起きる。実際、これはかなりよくある失敗パターンだ。特に、目の前で問題が起きている部署(クレームが多い、明らかにシステムが古い、など)から手をつけると、そこに時間を吸われて他部署に手が回らないまま時間切れになる。
承継1年目の目的は刷新ではなく「爆弾がどこにあるか」を把握することだ。全部署を回りきらなければ、この目的自体が達成できない。したがって、全部署ヒアリングに何ヶ月かけるかを、規模と体制に応じてあらかじめ決めておく必要がある。
分かれ目1: 部署数がどのくらいあるか
最初の分岐は、部署の数そのものだ。100人超といっても、5部署に100人が分かれている会社と、15部署に100人が分かれている会社では、必要な期間がまったく違う。
部署数が少ない(目安として5〜8部署程度)場合、1部署あたり2〜3週間のヒアリング期間を見込んでも、全体で3〜4ヶ月あれば一巡できる計算になる。承継1年目の前半、つまり最初の4〜5ヶ月をこの一巡に充てる設計が現実的だ。この期間は日々の経営判断に追われる時期でもあるので、ヒアリングは週1〜2部署のペースに抑え、無理に詰め込まないほうが結果的に情報の質が上がる。
部署数が多い(10部署を超える)場合、同じペースでは半年以上かかってしまう。この場合は全部署を均等に回るのではなく、優先順位をつけた2段階方式にするのが現実的だ。1段階目として、まず全部署に「システムで困っていることはあるか」という短いヒアリング(30分程度)を承継後2〜3ヶ月以内に済ませる。これは深掘りではなく、爆弾の所在を大まかに知るためのスクリーニングだ。2段階目として、1段階目で懸念が見つかった部署だけ、承継1年目の残り期間で深掘りヒアリングを行う。全部署を同じ深さで回ろうとすると時間切れになる会社は、この2段階方式に切り替えるべきだ。
分かれ目2: 部署ごとにシステムが完全に独立しているか、一部共通しているか
2つ目の分岐は、部署間でシステムがどれだけ独立しているかだ。
部署ごとに完全に別々のシステム(部署独自に導入したExcel台帳や個別契約のSaaSなど)を使っている場合、ヒアリングの負荷は単純に部署数に比例する。1部署ずつ丁寧に見ていくしかない。この場合、先代の代からのサーバーが壊れたら何が止まる?単一障害点の洗い出し方の考え方を各部署に当てはめ、その部署のシステムが止まったら何が止まるかという観点でヒアリングすると、限られた時間でも重要度の高い情報を優先的に拾える。
一方、基幹システムなど複数部署が共通で使っているシステムがある場合は、そのシステムについては代表的な1〜2部署に詳しく聞けば済み、残りの部署では「使い方の違い」「困っている点の違い」だけを軽く確認すればよい。これは全部署を回る期間を大きく圧縮できる分岐であり、承継してすぐに「どのシステムが全社共通で、どのシステムが部署固有か」を大まかに把握しておくと、その後のヒアリング計画が立てやすくなる。先代システムの現状調査(棚卸し)のやり方を最初の見取り図作りに使うとよい。
分かれ目3: 前任の経営陣・管理職からの情報がどれだけ残っているか
3つ目の分岐は、引き継ぎ書や過去の資料がどれだけ残っているかだ。
引き継ぎ書や部署ごとの業務マニュアルがある程度残っている場合、全部署を訪ねる前に資料に目を通し、聞くべきことをあらかじめ絞り込める。この場合、実際のヒアリング自体は短時間で済み、全部署一巡を承継1年目の前半で終えられる可能性が高い。
引き継ぎ書がほとんど残っていない場合、資料に頼らず全部署でゼロからヒアリングする必要があり、当然時間がかかる。この場合は焦って全部署を急いで回るより、引き継ぎ書ゼロで先代が退いた。今から緊急で作るべき資料一覧を参考に、まず全社的に最低限必要な資料の型を決めてから部署ヒアリングに入ったほうが、後戻りが少ない。
目安としての期限設定
部署数や条件によって幅はあるが、承継1年目という枠組みで考えるなら、全部署の一巡(少なくともスクリーニングレベル)は遅くとも承継後8ヶ月目までに終えるのが一つの目安になる。残りの4ヶ月は、一巡で見つかった懸念事項の深掘りや、緊急度の高いリスクへの対応に充てる時間として確保しておきたい。
全部署を回りきらないまま1年目が終わると、2年目以降の刷新フェーズに入る際にも「まだ実態を把握していない部署」を抱えたまま次のステップに進むことになり、後になって想定外の爆弾が出てくるリスクが残る。承継直後に安心して休むために作っておく仕組み、非IT出身の承継社長のためのIT資産管理の始め方も、全部署ヒアリングと並行して進めておくとよい。
