1年目の成果は「答え合わせ」の材料になる
攻めのIT投資に着手して1年が経つ頃には、最初に選んだ領域——生成AI活用、業務自動化、データ活用のいずれか——について、うまくいった部分とそうでない部分がある程度見えてきます。この時点でやるべきは、1年目と同じ領域を漫然と続けることでも、目新しさだけで次のテーマに飛びつくことでもありません。1年目の結果を踏まえて、2年目にどこへ力を配分し直すかを一度立ち止まって判断することです。
この判断を誤ると、うまくいっていない領域に投資を積み増して傷を深くしたり、逆にうまくいきかけていた領域を中途半端なタイミングで手放してしまったりします。1年という時間軸で投資対象を橋渡しする視点が、ここで必要になります。
判断の分かれ目は「定着度」と「伸びしろ」
2年目の投資対象を決める判断軸は、1年目に着手した領域を次の2つの視点で評価することから始まります。
- 定着度:社員が自発的に使い続けているか。指示しなければ誰も触らない状態のままか。
- 伸びしろ:今の使い方の延長で、まだ広げられる余地があるか。それとも、この領域はもう天井が見えているか。
この2軸を組み合わせると、2年目に取るべき選択肢は大きく3パターンに分かれます。
| 1年目の状態 | 2年目の選択肢 |
|---|---|
| 定着度が高く、伸びしろもある | その領域を深掘りする(対象業務を広げる、精度を上げる) |
| 定着度は高いが、伸びしろが小さい | 定着した領域は維持しつつ、新しい領域へ横展開する |
| 定着度が低い | 深掘りする前に、なぜ定着しなかったかの原因を特定する。原因次第では撤退も選択肢 |
どのパターンに当てはまるかは、感覚ではなく、1年目に記録してきた利用状況や社員からの声をもとに判断してください。着手直後の3カ月間にどんな兆候を観察すべきかは攻めのIT投資を始めて最初の3カ月で確認すべきことで扱っていますが、その記録を1年分積み重ねた結果が、ここでの判断材料になります。
深掘りする場合にやるべきこと
1年目に着手した領域が定着し、まだ伸びしろがある場合は、同じ領域の中で対象業務を広げるのが素直な選択です。たとえば生成AIを議事録要約から始めたなら、次は問い合わせ対応の一次回答案作成へ、というように、リスクの小さい業務から少しずつ範囲を広げます。
このとき注意すべきは、範囲を広げるスピードです。1年目にうまくいったからといって一気に全社展開すると、1年目に丁寧に積み上げた社内の信頼を、拙速な展開で損ないかねません。段階を踏んだ全社展開のタイミングについてはAI活用を全社に広げるタイミングを参照してください。
業務自動化を深掘りする場合は、対象業務の選定基準に立ち返ることが有効です。業務自動化、承継後の会社が無理なく始められる範囲の見極め方で扱った「ルールが明確」「頻度が高い」「データ形式が安定」という3条件を、次に自動化する業務にも当てはめて選んでください。
横展開する場合にやるべきこと
1年目の領域が定着したものの、これ以上広げても伸びしろが小さいと判断した場合は、その領域は維持運用に切り替え、新しい領域へ投資を移します。ここでの横展開先は、1年目に選ばなかった残りの領域——業務自動化、データ活用、外部リソース活用のいずれかです。
横展開先を選ぶ基準は、守りが整ったら次にやること。攻めのIT投資の始め方で扱った4方向の判断軸と基本的に同じです。ただし2年目は1年目と違い、社内にすでに「攻めのITに取り組んだ経験」があります。1年目にAI活用でルール整備や社員教育を経験していれば、2年目のデータ活用や自動化でも同じ勘所が活きるはずです。1年目の経験を土台に、2年目の領域選定にかかる時間は短縮できると考えてよいでしょう。
横展開先としてデータ活用を選ぶ場合、1年目の刷新プロジェクトや業務自動化によってデータが溜まり始めているかどうかが前提条件になります。データがまだ紙・Excel台帳に散らばっている状態であれば、データ活用より先にFAX・手書き台帳からの受発注、抜け出すための第一歩のような周辺整理が必要になることもあります。
撤退・原因究明が必要な場合にやるべきこと
1年経っても利用が定着していない場合、最も避けたいのは「もう1年、様子を見よう」という先送りです。定着しない理由は、たいてい次のいずれかに集約されます。
- ルール整備が不十分で、社員が安心して使えない状態のままだった
- 現場の負担がある業務とズレたテーマを選んでしまい、そもそも困っていない業務を自動化・AI化しようとしていた
- 古参社員の抵抗に対して、十分な向き合いができないまま進めてしまった
どの原因に当てはまるかを特定できれば、同じ領域でもう一度仕切り直すべきか、それとも別の領域に切り替えるべきかの判断がつきます。承継後の会社に共通する失敗パターンはAI導入が失敗する会社の共通点、承継後にありがちな落とし穴に整理していますので、原因の当てはめに活用してください。
2年目の投資判断を経営会議でどう説明するか
1年目の実績をもとに2年目の投資対象を切り替える判断は、古参役員や先代への説明が必要になる場面でもあります。「なぜこの領域を続けるのか」「なぜあの領域から手を引くのか」を、1年間の記録に基づいて数字と事実で語れると、説得力が大きく変わります。稟議や説明資料の作り方はIT導入の稟議書の書き方、非IT出身の決裁者に伝わるテンプレートを参考にしてください。
まとめ:1年ごとに投資対象を棚卸しする
攻めのIT投資は、一度始めたら同じ領域をずっと続けるものではありません。1年ごとに定着度と伸びしろを棚卸しし、深掘りするか、横展開するか、原因究明に立ち返るかを判断し直す。このサイクルを繰り返すことで、投資が的外れな方向に固定化するのを防げます。
この切り替えを何度か繰り返し、攻めのIT投資という段階そのものが一段落してきたと感じたら、次のフェーズへの移行を検討するタイミングです。その見極め方は攻めのIT投資が軌道に乗った後、次の経営課題に移るタイミングの見分け方で扱っています。
