見つけてしまった違和感を、いつ扱うか
承継前、先代のもとで業務を観察していると、明らかに古そうなシステムや、誰も触りたがらない画面に出くわすことがある。動作が重い、エラーが出ても放置されている、担当者が「触らないでほしい」と口を揃える——そうした違和感を覚えても、あなたはまだ社長ではない。決裁権も、修正の予算を動かす権限もない状態で、この違和感をどう扱うかは意外と悩ましい。
ここで焦って手を出すと、承継前という立場の弱さゆえに思わぬ反発を招く。かといって、気づいたことを全部承継後まで放置すると、承継直後にトラブルが表面化して初動が乱れる。判断の軸を持っておく必要がある。
判断の分かれ目:「壊れたときの責任を誰が負えるか」で決める
触るかどうかを決める最大の基準は、システムへの興味や技術的な自信ではない。承継前のあなたが、万が一壊した場合の責任を負える立場にあるかどうかだ。ここで2つのパターンに分かれる。
パターン1: 触らず、記録だけして承継後に持ち越す 本番で稼働中の受発注・会計・顧客管理など、止まれば即座に事業に影響するシステムは、承継前には触らない。仮に「ちょっと設定を直せば良くなりそうだ」と思っても、それを実行する権限も、失敗した際に責任を取る立場もまだあなたにはない。承継前にできるのは、違和感の中身を具体的にメモしておくことまでだ。「何のシステムで」「何が起きていて」「誰が困っているか」を記録し、承継後すぐに調査を始められる状態にしておく。
パターン2: 影響範囲が小さく、先代や担当者の許可を得られるなら試してもよい 個人のPC設定や、特定の担当者しか使わない小さな業務ツールなど、影響範囲が閉じているものであれば話が別だ。先代や現場の担当者に一声かけたうえで、試しに触ってみることに大きなリスクはない。むしろ、承継前にこうした小さな成功体験を積んでおくと、「この後継者は現場をちゃんと見ている」という信頼につながることもある。
この見極めが難しいと感じたら、「動いているから触るな」と言われる系統のシステムかどうかを目安にするとよい。古参社員から強く止められるシステムは、たいてい影響範囲が読めていないからこそ「触るな」と言われている。「触ると壊れる」と言われ続けたシステムを調査する順番にあるように、承継前の段階では調査止まりにしておくのが安全だ。
それぞれの分岐でやるべきこと
パターン1を選んだ場合、承継前の期間を「調査だけする期間」と割り切る。触らずに済む形で情報を集める方法はいくつかある。担当者への聞き取り、マニュアルや過去の障害対応記録の確認、画面を見せてもらいながらの操作観察などだ。この段階での目的は解決ではなく、承継後すぐに優先順位をつけられるだけの材料を揃えることにある。特に、単一障害点になっていないか——このシステムが止まったら他に何が連鎖して止まるか——だけは承継前に把握しておきたい。ここが分かっていないと、承継後の初動で優先順位を誤る。
パターン2を選んだ場合も、独断では動かない。先代や担当者に「少し触ってみてもいいか」と一声かけることが、技術的な安全性以上に人間関係上の安全策になる。万が一うまくいかなかったときも、「勝手に触った後継者」ではなく「相談したうえで試した後継者」という受け止められ方の差は大きい。
「触らない」は「放置する」ではない
注意したいのは、パターン1を選んだからといって、その違和感を忘れてよいわけではないという点だ。承継前に見つけた違和感は、承継後の優先順位づけにおいて重要な一次情報になる。承継してから初めて気づくのと、承継前から知っていて備えているのとでは、対応スピードがまったく違う。
承継後、実際に手を動かす段階になったら、承継後最初の1週間で何を優先すべきかを参考に、承継前にメモしておいた違和感リストの中から着手順を決めるとよい。承継前は「見つけて、記録して、待つ」。承継後は「権限を得て、優先順位をつけて、動く」。この役割分担を崩さないことが、承継前という立場での最も安全な動き方になる。
