「触らない」と「確認しない」は別の話

製造業を承継すると、多くの二代目・三代目社長がまず教わるのがこの原則だ。「生産管理システムは触るな。止めると生産が止まる」。この原則自体は正しい。承継1年目は刷新や改善の段階ではなく、最悪の事態を防ぐ段階であり、稼働中の基幹システムに手を入れるリスクは、得られるメリットに見合わない。

しかし、この原則を「だから確認自体もしなくていい」という意味に取り違えると、1年目の終わりに深刻な状態で気づくことになる。「触らない」というのはシステムに変更を加えない、改修や刷新のプロジェクトを始めないという意味であって、そのシステムがどういう状態にあるかを知る努力までやめていい、という意味ではない。この2つを混同している承継社長は少なくない。

確認とは、具体的には「このシステムは何のOS・ハードウェア上で動いているか」「保守契約はどうなっているか」「誰が触れるか」「壊れたら何が起きるか」を把握することであり、これはシステムに一切変更を加えずにできる。むしろ、確認を怠ったまま1年が過ぎると、システムが壊れたその瞬間に初めて全貌を知ることになり、それこそが最悪のシナリオだ。

分かれ目1: システムの保守契約・サポート状況が分かっているか

製造業の承継1年目、生産管理システムの確認を後回しにしていい条件

最初の分岐は、生産管理システムの保守契約やベンダーサポートの状況を、承継時点で把握できているかどうかだ。

保守契約があり、ベンダーとの連絡ルートも生きている場合は、確認の後回しがある程度許容される。何かあれば連絡すれば対応してもらえる前提があるからだ。ただし「後回しにしていい」のはあくまで細かい仕様の把握であって、契約書そのものに目を通し、保守範囲・対応時間・契約更新時期を確認することは、承継後できるだけ早い段階でやっておくべきだ。保守契約の内容を契約前に確認すべき理由は新規契約向けの内容だが、既存契約の点検にも同じ観点が使える。

保守契約が切れている、あるいはベンダーと連絡が取れない場合は、話が変わる。この状態で確認を後回しにするのは非常に危険だ。生産管理システムが止まったときに誰も直せない、という状況を承継社長自身が知らないまま1年目を終えることになりかねない。この場合は「触らない」原則は維持しつつ、まず契約状況の実態把握とベンダーへの連絡確認を、承継後できるだけ早く行う必要がある。保守契約が切れたまま動いている先代システムのリスクと再契約の判断先代の代からの開発会社と連絡が取れなくなったとき、まず確認すべき3つのことを優先的に読んでおきたい。

分かれ目2: システムが古いOS・言語で動いているか

2つ目の分岐は、生産管理システムの技術的な古さだ。

比較的新しい技術基盤で動いている場合は、EOL(サポート終了)のリスクが当面低く、確認を急ぐ必要性はやや下がる。とはいえ「当面低い」だけであって「ゼロ」ではないので、1年目のうちに一度は基盤情報(OSバージョン、稼働ハードウェアの年式)を確認しておくべきだ。

VB6やDelphiなど古い言語、あるいはサポートが終了したWindows Serverなど古いOS上で動いている場合は、話が根本的に変わる。この場合、ハードウェアの故障やOSの強制終了リスクが常に付きまとっており、確認を後回しにする猶予は小さい。ここで重要なのは、確認したからといってすぐに移行やリプレイスをする必要はないということだ。「今どういう状態で、壊れたら何が起きるか」を把握し、代替機や緊急時の対応手順を用意しておくだけでも、何も知らない状態とは天と地ほど違う。VB6・Delphi製の先代システムはいつまで動くか。移行タイミングの見極め先代の代から動くWindows Serverのサポート終了(EOL)対応を承継1年目のうちに一度目を通しておくことを強く勧める。

分かれ目3: システムが壊れたときの代替手段があるか

3つ目の分岐は、万一システムが止まった場合に、手作業や紙の記録で一時的に生産を継続できる代替手段が現場にあるかどうかだ。

代替手段がある(ベテラン社員が手書きで生産指示を出せる、紙の台帳が残っているなど)場合、最悪のシナリオでも生産が完全に止まることは避けられる。この場合は確認の緊急度がやや下がり、1年目の中盤にかけて計画的に確認を進めれば足りる。

代替手段がない、あるいはその手段を知っているのが特定の古参社員1人に限られている場合は要注意だ。これは単一障害点が二重にある状態、つまりシステムの単一障害点(SPOF)であると同時に、代替手段を知る人間もまた単一障害点になっている。この場合、システム自体の確認と並行して、その古参社員から代替手順を早期に聞き取り、簡単にでも文書化しておく必要がある。放置すると、システムが壊れた瞬間に生産が完全に止まるだけでなく、代わりに手作業に切り替える方法すら誰も知らない、という二重の危機になる。

「確認する」の具体的な中身と期限の目安

ここまでの分岐を踏まえると、生産管理システムについて承継1年目のうちに最低限確認しておくべき項目は、保守契約の有無と連絡先、稼働している基盤(OS・ハードウェア)の状態、そして壊れたときの代替手段の有無、の3点に整理できる。いずれもシステムに変更を加えずに把握できる情報であり、「触らない」原則とは矛盾しない。

目安としては、承継後3ヶ月以内にこの3点の実態把握を終えることを目標にするとよい。生産管理システムは会社の心臓部であり、ここへの理解が遅れれば遅れるほど、承継社長が「何が分かっていないか」すら分からない状態が長引く。確認を終えたうえで、実際に手を入れる刷新の判断は1年目のうちに急ぐ必要はない。先代のシステムを「延命するか、作り直すか」の判断基準「動いているから触るな」と古参社員に言われるシステムの安全な改修手順は、確認を終えたあと、実際に手を動かす段階になってから読み返せば十分だ。