契約書は、読まれないまま更新され続けている

先代の代から続くシステムの保守契約書や開発委託契約書は、多くの場合、承継後も「今までそうしてきたから」という理由だけで自動更新されていきます。中身を最後に読んだのが誰か分からない、そもそも原本がどこにあるか把握していない、というケースも珍しくありません。

1年目の社長がこの状態に気づいたとき、選択肢は大きく二つに分かれます。自分で契約書を読み込んで理解するか、都度顧問弁護士や税理士に確認してもらうか。どちらも「読まない」よりは確実に安全ですが、1年目という時間もリソースも限られた段階でどちらを選ぶべきかは、状況によって変わります。ここを決めずに「そのうち読む」を続けてしまうのが、最も避けたい選択です。

分かれ目は「契約の重さ」と「読む時間があるか」

承継1年目、システムの契約書は自分で読むか顧問に確認してもらうか

判断の軸は、契約書の数や難しさそのものよりも、次の二点です。

  • その契約が止まると事業に直結する影響が出るか(基幹システムの保守契約か、周辺ツールの利用規約か)
  • 自分自身が、今後1〜2ヶ月のうちにまとまった時間を確保できるか

事業への影響が大きい契約ほど、理解の精度が問われます。逆に影響が小さい契約は、多少ざっくりした理解でも当面のリスクは限定的です。また、いくら重要な契約でも、日々の業務に追われて読む時間が確保できないなら、無理に自分で読み切ろうとするより先に専門家の目を通した方が結果的に早く済みます。

パターンA:自分で読む場合

事業への影響が大きく、かつ多少の時間を確保できるなら、まずは自分で目を通すことをおすすめします。理由は、契約書の細部を専門家に丸投げしてしまうと、「何が書かれているか」を自分の言葉で説明できないまま経営を続けることになり、後々の交渉や判断の場面で困るからです。

自分で読む際に最低限押さえるべき項目は限られています。

  • 保守の範囲はどこまでか、対象外の作業には別途費用がかかるか
  • 契約期間と自動更新の条件、解約の申し出期限
  • ソースコードや成果物の権利が自社にあるか、開発会社側にあるか
  • 障害発生時の対応時間や責任範囲(SLA(サービス品質保証)に相当する記載があるか)

この4点だけでも自分の目で確認しておくと、後で顧問に相談する際も「ここが曖昧で気になっている」と的確に伝えられるようになります。契約書の読み方の詳細は「うちでしか直せません」と言われたときに確認する契約書の項目保守契約の内容を契約前に確認すべき理由にまとめていますので、実際に読み込む際の手引きとして使ってください。

パターンB:都度、顧問に確認してもらう場合

時間が確保できない、あるいは契約書の法律用語や技術用語が多く自力での理解に不安がある場合は、無理をせず顧問に確認を依頼する方が安全です。1年目は経営の他の判断事項も多く、契約書の解読に何日もかけている余裕がないケースの方がむしろ一般的です。

この場合に気をつけたいのは、「丸投げ」と「都度確認」を混同しないことです。顧問に依頼する際も、次の準備をしてから相談すると、確認のコストと精度の両方が上がります。

  • 対象の契約書を事前に一覧化し、どれを優先して見てほしいかを伝える
  • 自分なりに気になっている点(費用、解約条件、権利関係など)を先に洗い出しておく
  • 一度にすべてを依頼せず、事業影響の大きい契約から順に確認してもらう

顧問への相談コストは、契約書を放置して後から不利な条件に気づくコストに比べれば、多くの場合小さく済みます。特に開発会社との契約は専門用語が多く、請負契約と準委任契約、何がどう違うのかのような基本的な違いすら把握しないまま更新され続けているケースもあるため、判断に迷う契約類型ほど早めに専門家の目を借りるべきです。

「読まないまま1年目を終える」が一番のリスク

自分で読むか顧問に確認してもらうかは状況次第で構いませんが、避けるべきなのはどちらも選ばず「読まないまま更新だけが続く」状態です。契約内容を誰も把握していない会社は、いざ開発会社とトラブルになったとき、あるいは乗り換えを検討したいときに、自社の立場がどれだけ守られているかすら分からない状態で交渉に臨むことになります。

1年目のうちに全契約を完璧に理解する必要はありません。ただし、事業に直結する契約を最低1本は自分の目で確認するか、顧問に確認してもらうか、どちらかの行動を必ず起こしておくことが、2年目以降の交渉力を左右します。まずは手元にある契約書を一覧にすることから始めてください。