なぜ最初の関係づくりが、その後のシステム運用を左右するのか

事業承継後の1年目、多くの社長が見落としがちなのが「人」の順番です。システムの中身を知ることも大事ですが、それ以上に大事なのは、そのシステムを何年も、あるいは何十年も扱ってきた古参の情シス担当・総務担当との関係です。

先代の時代から会社にいる担当者は、仕様書に残っていない知識を頭の中に持っています。「このExcelのこのセルは触ると計算が崩れる」「このシステムは月末だけ動きが違う」といった情報は、その人に聞かなければ二度と出てきません。逆に言えば、この担当者との関係が悪くなると、あなたは会社のシステムの半分をブラックボックスのまま経営することになります。

新社長が最初にやりがちな失敗は、「早く変えたい」「早く自分の色を出したい」という焦りから、いきなり評価や変更の話を持ち出してしまうことです。古参社員からすれば、それは自分がこれまでやってきたことを否定されたように聞こえます。1年目は、システムを変える前に、まず人との距離を縮める期間だと捉えてください。

ステップ1:まずは「教えてもらう」姿勢で聞く

古参社員との信頼構築を3ステップ(教えてもらう姿勢で聞く→小さな感謝を言葉にする→評価や変更の話は後回しにする)で示すフロー図。

最初にやるべきことは、評価でも改善提案でもなく、質問です。それも「なぜこんなやり方をしているのですか」という詰問調ではなく、「このやり方を教えてください」という学ぶ姿勢での質問です。

具体的には、こんな聞き方が有効です。

  • 「このシステム、どういう経緯で今の形になったんですか」
  • 「一番気をつけて運用している部分はどこですか」
  • 「過去に困ったことがあれば教えてください」

古参社員が長年守ってきた業務のやり方には、たいてい理由があります。非効率に見えても、過去のトラブルを避けるために意図的にそうしている場合も少なくありません。その背景を聞かずに「非効率だから変える」と判断すると、あとで痛い目に遭います。この段階の聞き取りは、先代のシステムを承継後すぐに調査する動きとも重なります。 先代システムの現状調査(棚卸し)のやり方 で紹介している棚卸しの手順は、この「聞く」作業を体系的に進めるための土台になります。

聞く姿勢を貫くコツは、メモを取ることです。話を聞きながらメモを取る社長は、古参社員から見て「ちゃんと引き継ぐ気がある人」に映ります。逆にその場で判断や指示を挟むと、聞き取りではなく詰問になってしまいます。

ステップ2:小さな感謝を、言葉にして伝える

聞き取りと並行して意識したいのが、感謝を言葉にすることです。中小企業の古参担当者は、多くの場合ずっと縁の下の力持ちで、面と向かって感謝を伝えられる機会が少ないまま何年も過ごしています。

「このシステム、ずっと一人で守ってくれていたんですね」「おかげで大きなトラブルなく回ってきたんですね」といった一言は、社交辞令ではなく、事実に基づいた評価として伝えることが大切です。世辞ではなく、聞き取りの中で実際に見えてきた事実——例えば「バックアップを毎週欠かさず取っていた」「トラブル時に休日出勤して対応していた」といった具体的な行動——を挙げて感謝すると、相手にも本気度が伝わります。

このタイミングで気をつけたいのは、感謝と同時に不安を煽らないことです。「今後どうなるか分からないけど」といった前置きは、せっかくの感謝を台無しにします。感謝は感謝として、まっすぐ伝えてください。

ステップ3:評価・変更の話は、後回しにする

1年目にもっとも避けたいのが、聞き取りの途中で評価や変更の話を差し込んでしまうことです。「このやり方はもう古いですね」「もっと効率化できそうですね」といった発言は、たとえ客観的に正しくても、信頼構築の途中では逆効果になります。

システムの刷新や業務フローの見直しは、古参社員との関係ができてから、つまり「この人になら相談してもいい」と思ってもらえてから着手するのが順番です。関係ができる前に変更を切り出すと、古参社員は変化そのものへの抵抗ではなく、「自分の存在を否定された」という感情的な抵抗を示すようになります。この抵抗は一度こじれると解きほぐすのに長い時間がかかります。

古参社員がなかなか変化を受け入れない背景や、向き合い方の最低ラインについては、 古参社員の「今のままでいい」が招く停滞と、向き合い方の最低ライン で詳しく扱っています。あわせて、先代からの取引先である開発会社との関係も、同じように「顔を立てながら」進める必要があります。角を立てずに長期的な関係を築く進め方は、 先代の顔を立てながら、開発会社と長期的にうまく付き合う方法 を参考にしてください。

目安としては、着任から3ヶ月は聞き取りと感謝に徹し、半年を過ぎたあたりから小さな改善提案を一つずつ試す、というくらいのペースが現実的です。焦らず、しかし止まらず進めることが、1年目の関係づくりの基本です。

この記事で扱いきれなかった詳細は、こちらのコラムへ

1年目の関係づくりは地味な作業に見えますが、ここでの積み重ねが、2年目以降のシステム刷新や業務改善のスピードを大きく左右します。焦らず、まずは聞くことから始めてください。