同時に進めると起きるずれ
攻めのIT投資が軌道に乗り始めると、次に経営会議のテーブルに上がるのが採用計画だ。業務効率化で浮いた時間をどう使うか、それとも人手不足そのものを埋めるために採用を進めるか。この2つを同じタイミングで動かそうとすると、多くの場合どちらかが空振りする。
典型的な失敗は、効率化の効果が出る前に採用を確定させてしまうケースだ。AI活用や自動化によって「1人でこなせる業務量が増える」という前提で投資を始めたにもかかわらず、その効果測定が終わらないうちに増員を決めてしまうと、投資と採用の両方のコストが同時にのしかかる。逆に、効果が出るまで採用を待ちすぎると、現場が疲弊している期間が長引き、効率化ツールを覚える余力すら残らないという逆効果も起きる。
どちらを先に動かすかは、業種や投資の性質によって一律には決まらない。ただし、判断の分かれ目は明確にできる。
判断の分かれ目:効果測定が先か、人手不足の緊急度が先か
パターンA:効率化の効果測定を先に終えてから採用計画を組む。 この順序が成立するのは、現状の人員でも業務が回っており、致命的な人手不足には至っていない場合だ。月次の投資対効果測定で、1人あたりの処理量がどれだけ増えたかを数字で確認したうえで、増員が本当に必要か、それとも今の人員のままで回せるかを判断する。増員が必要だと分かった時点で、効率化後の業務内容を前提に採用要件を組み立てられるので、求人票の内容もぶれにくい。
パターンB:人手不足の緊急度が高く、採用を先に動かさざるを得ない。 古参社員の退職が近い、特定の業務が属人化していて後継者がいないといった事情がある場合は、効率化の効果を待っている余裕がない。この場合は採用を先に動かし、並行して効率化のテーマを絞り込む。ただしこのパターンでは、採用した人材が「旧来のやり方」をそのまま覚えてしまうと、後から効率化を導入する際の抵抗要因になりやすい点に注意が必要だ。
それぞれの分岐でやるべきこと
パターンAを選ぶ場合、効果測定の期間をあらかじめ区切っておく。「効果が出るまで採用は保留」とだけ決めてしまうと、測定の終わりが曖昧になり、採用のタイミングを逃す。四半期のレビュー周期に合わせて、「次の四半期末までに効果が確認できなければ採用に切り替える」という期限つきの判断にしておくと、先延ばしにならない。
パターンBを選ぶ場合、採用する人材には最初から「今のやり方は今後変わる前提」であることを伝えておく。入社直後に旧来の業務フローを覚え込ませてしまうと、効率化ツールを後から導入する際に「せっかく覚えたのに」という抵抗が新たに生まれる。採用面接の段階で、業務効率化に前向きな姿勢を確認しておくことも有効だ。また、採用と並行して進める効率化のテーマは、古参社員の抵抗が起きにくい業務から着手し、新入社員が定着する前に既存フローが変わり切っている状態を目指す。
どちらのパターンでも共通して重要なのは、この判断を人事担当者やIT担当者だけに任せず、経営層が四半期レビューの議題として扱うことだ。採用と投資は別々の部署が動かしていることが多く、両者の時系列がずれていることに、経営層が気づかないまま数ヶ月が過ぎるケースは少なくない。
詳細を扱うコラムへのリンク
業務効率化と採用は、どちらが正しいという話ではなく、どちらを先に動かすかという時系列の設計の問題だ。緊急度と効果測定のどちらを優先するかを最初に決め、期限つきで判断することが、両者を噛み合わせるための最低限の条件になる。
