「誰に決裁をもらうか」を最初に決めておく

刷新するべき対象がある程度見えてきて、いよいよ動き出そうという段階になると、多くの社長が見落とすことがあります。それは「この刷新の最終承認者は誰か」という手続き上の問題です。

技術的に何を刷新するか、どの開発会社に頼むかは、比較検討すればいずれ決まります。ですが承継後の会社では、それとは別に「先代がまだ現場にいるかどうか」によって、意思決定の通し方そのものが変わってきます。ここを曖昧にしたまま進めると、せっかく古参社員の理解を得て準備を進めたプロジェクトが、土壇場で先代の一声によって止まる、あるいは逆に、先代に何も相談しないまま進めたことで後から角が立つ、といった事態を招きます。

刷新の中身を検討する前に、まず「この会社では、誰の承認を得れば刷新にゴーサインが出るのか」を確認しておくことが、遠回りに見えて一番の近道です。

分かれ目は「先代が現場にいるか、退いているか」

先代がまだ現場にいる会社と引退済みの会社、刷新の進め方の違い

承継後の会社は、大きく2つの状態に分かれます。

先代がまだ現場にいる会社は、会長や相談役といった立場で出社している、あるいは完全に退いてはいないが古参社員や取引先とのパイプを持ち続けているケースです。肩書き上は代表権を譲っていても、実質的な影響力が残っていることが少なくありません。

先代が引退済みの会社は、経営からも現場からも完全に退き、日常的な意思決定に関与していない状態です。体調面や本人の意向で完全に距離を置いているケースもこれに含まれます。

この2つは、刷新を「誰が最終承認するか」という一点において、進め方がまったく異なります。同じ社内体制図を持つ会社は少ないので、実際にはこの2パターンの間のグラデーションになりますが、判断の軸としては明確に分けて考えるのが実務的です。

先代がまだ現場にいる会社の進め方

先代が現場にいる場合、たとえ経営権を完全に譲られていても、刷新の実質的な承認プロセスに先代を組み込んでおくべきです。理由は単純で、先代を素通りして進めたプロジェクトは、古参社員を通じて先代の耳に入った時点で「聞いていない」という形の抵抗に変わりやすいからです。しかもこの抵抗は、刷新の中身への反対ではなく、手続きへの不満であることが多いため、内容を説明し直しても解消しません。

進め方としては、次の順序が現実的です。

  1. 刷新の方向性が固まった早い段階で、先代に概要だけ一度共有する
  2. 詳細を詰める過程では現社長が主導し、逐一の相談は不要
  3. 発注や契約など後戻りしにくい意思決定の直前に、改めて先代に最終確認を取る

ポイントは、先代に「決めてもらう」のではなく「知っておいてもらう」という位置づけにすることです。最終的な意思決定権が現社長にあることは変わりませんが、先代が蚊帳の外に置かれたと感じないタイミングで情報を通しておくことで、古参社員経由の横槍を防げます。この関係性の作り方は、先代の顔を立てながら、開発会社と長期的にうまく付き合う方法でも扱っていますが、対象が開発会社ではなく先代本人になっただけで、考え方は同じです。

先代が引退済みの会社の進め方

先代が完全に退いている場合は、事情が変わります。先代への事前共有という手続きは不要になる一方、その承認プロセスが担っていた「社内の目線合わせ」の機能を、別の形で補う必要が出てきます。

この状態では、先代の代わりに社内で影響力を持つ古参社員や役員が、実質的な「聞いていない」の発生源になります。したがって進め方は次のようになります。

  1. 刷新の方向性を固める段階で、古参の役員・主要な部門長に相談役として関わってもらう
  2. 決裁ルートは現社長が持つが、形式的にでも役員会や幹部会議を通す
  3. 発注前に、影響を受ける現場の責任者に個別で説明する機会を設ける

先代がいる会社と違うのは、承認をもらう相手が「1人の先代」から「複数の現場責任者」に分散する点です。手続きとしては軽くなったように見えて、実際には合意形成の手間が増えることも多く、ここを甘く見て社長の独断で進めると、古参社員の「今のままでいい」が招く停滞と、向き合い方の最低ラインで扱っているような形の停滞を招きます。

判断を誤るとどうなるか

どちらのパターンでも共通して起きる失敗は、「承認の手続きを省略して、内容の説明だけで押し切ろうとする」ことです。先代が現場にいるのに事前共有を怠れば、契約直前で「聞いていない」を理由に頓挫します。先代が引退済みなのに、いつまでも「先代に確認しないと」と及び腰になれば、決裁が遅れて刷新のタイミングを逃します。

どちらの状態にあるかを最初に見極め、それに応じた承認ルートを刷新計画の初期段階で決めておくことが、後々の手戻りを防ぐ最も確実な方法です。

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