誰から先に会うべきか、という順序の悩み
後継者として社内にいると、先代の代から付き合いのあるシステムベンダーの存在に気づく。開発会社、保守業者、SaaSの営業担当。承継が近づくにつれ、「一度挨拶しておいたほうがいいのでは」という考えが浮かぶ。しかしここで迷うのが、社内の実態把握が終わっていない段階でベンダーに接触してよいものか、という順序の問題だ。
先に社内を固めてからベンダーに会うべきか、それとも早めにベンダーとの関係を作っておくべきか。この判断は、承継後の刷新プロジェクトの進めやすさに直結する。
先にベンダーに会う場合のメリットとリスク
早い段階でベンダーに挨拶しておく最大のメリットは、関係構築に時間をかけられることだ。ベンダー側も後継者の顔と名前を早くから知っていれば、正式な承継後のコミュニケーションがスムーズになる。特に先代の代から長く付き合いのある開発会社であれば、先代との人間関係の延長で急に態度を変えることは考えにくく、早めの挨拶自体が失礼にあたることは少ない。
一方でリスクもある。社内のシステムの実態を把握していない状態でベンダーと話すと、相手のペースで話が進みやすい。「うちが全部把握しているので大丈夫です」という説明を鵜呑みにしてしまい、後で実は自社の契約書に不利な条項があった、データがエクスポートできない仕組みになっていたといった事実に気づくパターンは少なくない。情報の非対称性がある状態でベンダーと接触すると、こちらが評価される側ではなく、される側に回ってしまう。
分かれ目は「その接触の目的が挨拶か、調査か」
この判断の軸は、接触の目的が単なる顔合わせなのか、それとも実質的な調査や交渉を伴うものなのかという点にある。
目的が挨拶だけであれば、社内把握を待たずに早めに動いてよい。「後継者としてご挨拶させてください」という程度の接触であれば、社内の実態を把握していなくても問題は起きない。むしろ早めに顔を合わせておくことで、先代を通さない直接のパイプができ、承継後にスムーズに情報を引き出せるようになる。
一方、目的が契約内容の確認や、システムの中身についての実質的な質問であれば、先に社内の実態把握を終えておくべきだ。何も知らない状態で「このシステムの仕様を教えてください」と聞いても、相手の説明が正しいかどうかを判断する材料がない。「触ると壊れる」と言われ続けたシステムを調査する順番や仕様書がない先代システムの仕様を動きから逆算する方法にあるように、まず社内でわかる範囲の実態を掴んでから、その裏付けや不明点をベンダーに確認するという順番が安全だ。
挨拶と調査を分けて考える
実務的には、この二つを別のタイミングとして切り分けるとうまくいく。承継前の段階では「挨拶」だけを目的にした短い接触にとどめ、契約書の中身や技術的な詳細に踏み込む「調査」は、社内把握がある程度進んでから、できれば承継後、決裁権を持った状態で行う。
挨拶の場では、こちらから多くを語る必要はない。「先代からお世話になっていると聞いています、今後ともよろしくお願いします」程度で十分であり、この場で契約内容や不満を口にするのは避けたい。ベンダー側に「後継者は詳しく調べている」という警戒感を与えると、承継後の本格的な調査や交渉で情報を出し渋られる可能性がある。
承継後の本格的な対話に向けて
社内の実態把握がある程度進んだ後、正式に社長として開発会社と向き合う段階になったら、開発会社との最初の面談や危険な開発会社のサイン10選を参考に、対等な立場での対話を進めていきたい。
また、ベンダーとの関係を見直す必要が出てきた場合の判断材料としては、先代の代からのシステム仕様の確認方法や開発会社の乗り換え判断フローが役立つ。
承継前の今は、ベンダーとの関係を「壊さないこと」を最優先にしつつ、実質的な調査や判断は社内把握と権限獲得の後に回す、という順序を守ることが、後々の交渉力を保つことにつながる。
