「完璧な台帳」を目指すと、たいてい止まります

承継してしばらく経つと、「そろそろシステムを一覧にまとめておこう」と考える社長は少なくありません。実際、台帳がないまま先代の時代からのシステムを運用しているのは危険な状態です。誰が何を管理しているか分からず、契約更新の見落としや、担当者退職時のアカウント放置につながります。

ただ、ここでよくあるのが「どうせ作るならちゃんとしたものを」という発想です。項目を増やし、フォーマットを凝り、全部署に聞き取りをして……とやっているうちに、日常業務に追われて手が止まる。気づけば台帳作成そのものが「いつかやる仕事」の棚に戻ってしまいます。

台帳は一度で完成させるものではありません。1年目は「最低限、これだけは埋まっている」状態を作ることがゴールです。項目を絞り、まず全体を一周させる。精度を上げるのはそのあとで構いません。

1年目に埋めるべき最低限の項目

承継1年目の管理台帳に最低限埋めるべき5項目(システム名・契約先・費用・担当者・重要度)を示すチェックリスト図。

完璧を目指さないための一番シンプルな方法は、最初から項目数を絞ることです。1年目の台帳は、次の5項目があれば機能します。

項目記入内容の目安
システム名会計・勤怠・受発注・顧客管理など、社内で使っているシステム・ツールの名称
契約先開発会社・SaaS提供元の会社名、担当窓口
費用月額・年額の概算(請求書や口座引き落とし履歴からで可)
担当者社内で実際に触っている人(先代・古参社員も含む)
重要度「止まると業務が止まる」か「止まっても代替が効く」かの区分

この5項目は、Excelでもスプレッドシートでも、紙のノートでも構いません。フォーマットの美しさより、まず全システムが一覧に「載っている」ことのほうが重要です。細かい契約条件、バージョン情報、サーバーのIPアドレスといった情報は、あとから重要度の高いものだけ追記していけば十分です。

台帳のひな形自体は、承継したらまず作る、システム管理台帳のテンプレートで配布しているものをそのまま使っていただけます。ゼロから項目設計を考える必要はありません。

埋め方の優先順位。全部を一度にやらない

5項目に絞っても、社内のシステム・ツールをすべて洗い出すのは一度にはできません。優先順位をつけて、重要度の高いものから埋めていくのが現実的です。

  1. 止まると業務が止まるシステム(会計、受発注、基幹システムなど)を最優先で埋める
  2. 先代や特定の社員しか分からないシステムを次に埋める。属人化しているものほど、担当者が抜けた瞬間にブラックボックス化するリスクが高いためです
  3. 費用が発生しているシステムを埋める。契約更新や解約判断に直結するため、優先度は中程度です
  4. 重要度が低く、代替が効くツールは最後で構いません。無理に1年目で網羅する必要はありません

この順番で進めると、仮に台帳作成が途中で止まってしまっても、「止まると困るもの」「属人化しているもの」の記録だけは確保できます。台帳の目的は完成度ではなく、いざというときに社長が状況を把握できることです。優先順位の高いものから埋めれば、その目的の大部分はすでに達成されています。

属人化そのものへの向き合い方は、属人化した先代システムを防ぐ、承継後の管理台帳の作り方で扱っています。「なぜ属人化が起きるのか」「台帳がその予防策になる理由」を詳しく知りたい場合はあわせてご覧ください。

埋まらない項目があっても、いったん先に進む

台帳を作っていると、必ず「これは誰に聞けば分かるのか分からない」という項目に当たります。先代がすでに退任していたり、担当者が退職していたりするケースです。

こうした空欄に時間をかけすぎないことも、1年目は大切です。分からない項目は「不明」「要確認」と書いたまま先に進み、あとで判明したときに埋め直せば十分です。台帳を止めてしまう最大の原因は、1つの空欄を完璧に埋めようとして立ち止まることにあります。

もし契約先の開発会社と連絡が取れない、あるいは担当者が誰も分からないシステムが見つかった場合は、放置せずに早めに手を打つ必要があります。先代の代からの開発会社と連絡が取れなくなったとき、まず確認すべき3つのことを参照してください。

まとめ。まず一周させることが1年目のゴール

1年目の台帳作りで目指すべきは、精緻さではなく網羅性です。システム名・契約先・費用・担当者・重要度の5項目を、重要度の高いものから優先して埋めていく。空欄が残っても、いったん全体を一周させることを優先する。

台帳が一度形になれば、2年目以降は項目を増やしたり、精度を上げたりする余地がいくらでも生まれます。逆に、1年目に完璧を目指して手が止まってしまうと、台帳自体が「存在しないもの」に逆戻りしてしまいます。

まずは埋まる範囲から、埋まる形で始めてみてください。