「触るな」は、ほぼ全員が言われる

会社を継いでしばらくすると、古参社員や先代から「あのシステムは触らないでください」「動いているものをいじると壊れます」と釘を刺される場面が出てきます。特にシステムの中身が見えない社長ほど、この一言に強い不安を感じるはずです。

先に結論を言うと、この「触るな」は多くの場合、悪意でも隠し事でもありません。長年その業務を回してきた人が、変更によって自分の仕事が止まることを恐れているだけのケースがほとんどです。ですから1年目にやるべきは、「触るか触らないか」を急いで決めることではなく、「今すぐ危険かどうか」を見極めることです。ここを間違えると、必要な改修を先延ばしにして事故を招くか、逆に不要な改修に手を出して古参社員との関係を壊すか、どちらかに転びます。

まず確認すること。今すぐ危険な兆候があるか

「触るな」と言われるシステムへの対処を、危険な兆候の有無で2パターンに分岐させる判断ツリー図。

「触るな」と言われたシステムに向き合うときの最初の分かれ道は、次の兆候が今すでに出ているかどうかです。

  • エラーメッセージや処理落ちが、頻度は少なくても実際に発生している
  • バックアップが取られているか誰も答えられない、または復元を試したことがない
  • サーバーやOSのサポート期限が近い、またはすでに切れている
  • 開発会社と連絡が取れない、契約の存在自体があいまい
  • 退職者のアカウントやPCがそのまま残っている

この兆候が1つでも当てはまるなら、それは「様子見していい状態」ではありません。次の項目に進んでください。当てはまらないなら、1年目は現状維持を軸に情報収集へ回ってかまいません。

パターンA:危険な兆候がある場合は、慎重に確認する

危険な兆候があるからといって、いきなり改修に着手する必要はありません。ここでも「触る」と「確認する」は分けて考えます。まずやるべきは事実確認です。

  • バックアップが本当に復元できるか、小さく試してみる
  • サポート期限切れのサーバーやOSがどの業務を支えているかを洗い出す
  • 開発会社との契約書を引っ張り出し、保守範囲と連絡手段を確認する
  • そのシステムが止まったら何が止まるか(単一障害点)を書き出す

これらは「システムを変更する」行為ではなく「今の状態を知る」行為なので、古参社員の警戒心を強く刺激することは少ないはずです。それでも不安がる相手には、「直すためではなく、何かあったときに困らないように記録しておきたいだけです」と目的を先に伝えると角が立ちにくくなります。

具体的な調査の順番は「触ると壊れる」と先代に言われ続けたシステムを調査する順番に整理していますので、実際に手を動かす際はそちらを参照してください。

パターンB:危険な兆候がない場合は、現状維持で情報収集に徹する

今すぐの危険が見当たらないなら、1年目は無理に変えようとしないことをおすすめします。理由は単純で、承継直後の社長は「このシステムが会社の中でどう機能しているか」をまだ十分に理解できていないからです。この段階で改修に踏み切ると、見えていなかった依存関係を壊してしまうリスクの方が高くなります。

この期間にやることは「触らずに知る」ことです。

  • どの部署の、誰が、毎日どう使っているかを聞いて回る
  • システムが生成する帳票やデータが、どこに渡って何に使われているかを追う
  • 古参社員に「このシステムの一番の弱点はどこだと思うか」を素直に聞く
  • 気づいたことをメモに残し、簡単な管理台帳を作り始める

この情報収集自体が、1年目の最も重要な仕事です。何もしていないように見えて、実際には「触るべきタイミングと範囲」を見極める材料を集めています。台帳の作り方は属人化した先代システムを防ぐ、承継後の管理台帳の作り方を参考にしてください。

いつ「延命」か「作り直し」かを決めるか

情報収集がある程度進み、システムの全体像が見えてくると、次に出てくる問いは「このシステムをこのまま延命させるべきか、いずれ作り直すべきか」です。これは1年目に急いで結論を出す必要はありませんが、判断の軸だけは早めに持っておくと後がぶれません。判断基準は先代のシステムを「延命するか、作り直すか」の判断基準にまとめていますので、情報が集まってきた段階で目を通しておくと、2年目以降の動き方が具体的になります。

改修に踏み切るときのために

現状維持の期間を経て、いよいよ手を入れる段階になったら、古参社員の協力なしに進めることはできません。「動いているから触るな」と言われる空気を残したまま強行すると、必要な情報が出てこなくなり、かえって危険が増します。安全な進め方の手順は「動いているから触るな」と古参社員に言われるシステムの安全な改修手順に具体的にまとめていますので、改修が視野に入った時点で確認してください。

「触るな」への向き合い方は、結局のところ「急がない」ことと「知ろうとし続ける」ことの両立に尽きます。1年目は結論を出す年ではなく、正しい判断ができるだけの材料を集める年だと捉えてください。