「増やしたい」気持ちだけでは決められない
攻めのIT投資を始めて1年が経つと、経営会議で必ず出てくる話題がある。「来年度の予算をどうするか」だ。効果が出ているなら増やしたい、そうでなければ見直したい。誰もがそう考えるが、実際にはこの判断を下すタイミングと材料が曖昧なまま、なんとなく前年並みの予算が踏襲されてしまう会社が多い。
増額判断が曖昧になる背景には、承継後特有の事情もある。先代の時代からの予算感覚が社内に残っていて、「攻めの投資」という項目自体が比較的新しく、過去の実績と比較する基準がまだ確立していないことが多い。だからこそ、初年度の実績が出た段階で、増額判断のための材料と時期を意図的に設計しておく必要がある。
判断の分かれ目:どの実績を根拠にするか
増額判断の材料は、大きく2パターンに分かれる。
パターンA:定量的な投資対効果を根拠にする。 月次で積み上げてきた効果測定のデータを年間で集計し、投資額に対してどれだけの時間削減・コスト削減・売上への貢献があったかを数字で示す。この数字が投資額を上回っていれば、増額の根拠として説得力を持つ。特に先代や古参役員に説明する際は、感覚的な「効果があった」ではなく、具体的な数字を示すことが増額の承認を得る近道になる。
パターンB:定量化しきれない波及効果を根拠にする。 AI活用や業務効率化の効果は、必ずしも金額や時間だけでは測れない。社員の離職率が下がった、採用面接で「IT環境が整っている」ことが応募理由に挙がるようになった、といった副次的な効果が出ている場合は、これも増額の根拠になり得る。ただしこちらは定量化が難しい分、経営会議での説明には工夫が要る。
どちらの材料を主軸にするかは、投資の内容と、意思決定者が何を重視するかによって決まる。数字に厳しい経営陣であればパターンA、現場の定性的な変化を重視する経営陣であればパターンBが説得力を持ちやすい。多くの場合は両方を組み合わせることになる。
それぞれの分岐でやるべきこと
パターンAを選ぶ場合、初年度の投資額と効果を1枚の資料にまとめ、翌年度の予算編成が始まる前——多くの会社では決算期の2〜3ヶ月前——に経営会議へ提示する。ここで重要なのは、増額の根拠となる数字だけでなく、「増額しなかった場合に何を失うか」も併記することだ。効率化が進んだ業務を放置すれば、競合他社との差が広がる、あるいは削減できた人件費相当分がそのまま元に戻る、といった機会損失の説明があると、増額の必要性がより明確に伝わる。
パターンBを選ぶ場合、離職率や応募状況といった人事データを、IT投資と結びつけて説明できる形に整理しておく。単に「社員の評判が良い」では根拠として弱いため、可能であればアンケートや面談での発言を記録に残し、具体的なエピソードとして提示できるようにしておく。
どちらのパターンでも共通するのは、増額判断は決算後にまとめて行うのではなく、四半期ごとの見直しの積み重ねの延長線上に置くべきだという点だ。年に一度だけ振り返って判断しようとすると、初年度のどの時期に何が起きていたかの記憶が薄れ、説得力のある資料を作りにくくなる。四半期ごとに材料をためておき、年度末にそれを集約するという流れにしておくと、増額判断の精度が上がる。
詳細を扱うコラムへのリンク
予算の増額は、感覚ではなく積み上げた材料で判断するものだ。初年度の実績が出そろうタイミングを待つのではなく、四半期ごとの記録を年度末に集約する仕組みを最初から用意しておくことが、翌年度の予算編成をスムーズに進める鍵になる。
