「全部やらなきゃ」の前に、順番を決める
承継してシステム周りを見渡すと、たいてい一度に3つの問題が目に入ります。紙とExcelだらけの現場、いつ壊れるか分からない先代の代からのシステム、そして「うちでしか分かりません」と言い続ける古いベンダー。どれも気になりますが、同時に手をつけるのは体力的にも予算的にも現実的ではありません。
大事なのは「どれが一番重要か」ではなく「どれから着手すれば無理なく前に進めるか」です。この記事では、3つの選択肢を同じ軸で比較し、最初の一手を決めるための考え方を整理します。
判断軸は3つだけでいい
優先順位づけに難しい理論は要りません。次の3つの軸で見れば十分です。
- 緊急度:放置すると業務が止まる、または情報が失われるリスクはどれくらい高いか
- 投資対効果:かけるコスト・時間に対して、どれだけ早く・大きく効果が出るか
- 社内の合意形成しやすさ:古参社員や先代を含め、社内の抵抗なく進められるか
この3つで3つの選択肢を採点していくと、自社にとっての「最初の一手」が自然と見えてきます。
選択肢①:紙・Excel脱却
FAXでの受発注、手書きの台帳、重くて開けなくなったExcelファイル。これらは日々の業務に密着している分、痛みを感じやすい領域です。
- 緊急度:中〜高。ファイルが壊れる、担当者が辞めて誰も関数を読めなくなる、といった「ある日突然詰む」リスクを抱えています。
- 投資対効果:高い。ノーコードツールやkintoneなどを使えば、比較的低コストかつ短期間で二重入力や転記ミスを減らせます。効果を実感しやすいのも利点です。
- 合意形成のしやすさ:やや低め。「今のやり方で困っていない」という現場の声が根強いことが多く、ここが最大のハードルになりがちです。
日々の業務が紙・Excel頼みで、かつ「そのExcelを開ける人が限られている」状態なら、ここから着手する優先度は高くなります。同時に開けない先代のExcel台帳、システム化の判断ラインはどこかを参考に、自社の台帳がどの段階にあるか確認してみてください。
選択肢②:老朽システム移行
VB6やDelphiで組まれた業務システム、サポートが切れたWindows Serverの上で動くシステム。これらは「動いているうちは平気に見える」のが厄介なところです。
- 緊急度:システムの状態次第で大きく変わります。OSやミドルウェアのサポートが既に切れている、後継のいないベテラン1人が保守している、といった状態なら緊急度は一気に跳ね上がります。
- 投資対効果:中程度。刷新自体には相応の費用と期間がかかりますが、「止まったら事業が止まる」システムであれば、投資に見合う効果は明確です。
- 合意形成のしやすさ:中程度。実務担当者は不安を感じていることが多く、説明次第では理解を得やすい一方、費用感が大きいため経営判断としての重みが増します。
「触ると壊れる」と言われ続けているシステムがあるなら、まず現状を正しく把握することが先決です。判断のタイミングについては、VB6・Delphi製の先代システムはいつまで動くか。移行タイミングの見極めで詳しく扱っています。
選択肢③:古いベンダーとの決別
先代の代から付き合いのある開発会社との関係を見直す動きです。ここは「今すぐ何かが壊れる」話ではないため、緊急度だけで見ると後回しにされがちです。
- 緊急度:低〜中。ただし保守費が年々上がっている、連絡が取りづらくなっている、といった兆候があるなら軽視できません。
- 投資対効果:中〜高。乗り換え自体に手間はかかりますが、成功すれば保守費の適正化や対応スピードの改善という形で継続的な効果が出ます。
- 合意形成のしやすさ:低め。先代の代からの付き合いという事情が絡むため、社内的にも人間関係的にも一番デリケートな選択肢です。
ここを最初に選ぶケースは多くありませんが、「うちでしか直せません」と言われて身動きが取れない状態が既に起きているなら、話は別です。自社が今どのパターンに当てはまるかは、ベンダーロックインとは?先代の代から陥りがちな典型パターンを読むと整理しやすくなります。
3つを並べて見る
| 緊急度 | 投資対効果 | 合意形成のしやすさ |
|---|---|---|
| 紙・Excel脱却 | 中〜高 | 高 |
| 老朽システム移行 | 状態次第で高 | 中 |
| 古いベンダーとの決別 | 低〜中 | 中〜高 |
多くの会社では、「投資対効果が高く、着手のハードルも比較的低い」紙・Excel脱却が最初の一手になります。ただし、老朽システムに明確な危険信号(サポート切れ、後継者不在の属人化)が出ている場合は、そちらを最優先にすべきです。古いベンダーとの決別は、他の2つを進める過程で見えてくる「次の課題」として捉えておくくらいがちょうどよいでしょう。
迷ったら、まず現状把握から
どの選択肢を選ぶにしても、共通して必要なのは「今の状態を正しく知る」ことです。判断を焦って結論を急ぐより、まずは自社のシステムと業務がどの状態にあるかを一つずつ確認するところから始めてください。それだけで、次に何をすべきかはかなりはっきりしてきます。
