「聞いてしまった不満」はもう取り消せない

承継して数ヶ月もすると、現場の社員から「あのシステム、正直使いにくいんです」「先代の頃からずっとお願いしたかったんですが」という声が自然と耳に入ってきます。新しい社長には話しやすい、という空気もあるのでしょう。

ここで社長が悩むのは、「聞くべきか、聞かないべきか」という以前に、聞いてしまった不満をどう扱うかです。1年目は、まだ改善や刷新に手をつける段階ではありません。現状把握と最悪の事態を防ぐことに集中すべき時期です。そんな中で不満を聞いてしまうと、「言えば直してもらえるかもしれない」という期待が社員の中に生まれます。その期待に応えられないまま時間が過ぎると、「結局あの社長も聞くだけで何もしない」という失望に変わります。

かといって、不満に耳を塞げば、それはそれで「話を聞いてくれない社長」という印象を残します。しがらみの中で経営を引き継いだ二代目・三代目にとって、これは避けたい評価です。

結論から言えば、「聞くか聞かないか」の二択ではありません。聞き方と、聞いたあとの返し方を分けて考えることが分かれ目になります。

判断の分かれ目は「誰が」「どう」聞くかにある

承継1年目、社員からのシステム不満は聞くべきか聞かないべきか

パターン1: 社長自身が個別に、無防備に聞いてしまう

廊下や雑談の中で「実はあのシステムなんですが」と切り出され、社長がその場で「ああ、それは直したほうがいいですね」と反応してしまうケースです。これが最も危険なパターンです。社長の相槌一つが、社員にとっては「約束」として記憶されます。数ヶ月後に何も動きがなければ、その社員は「言ったのに」という不満を抱えたまま、他の社員にもその話をするようになります。

この段階では、相槌の打ち方に注意が必要です。「なるほど、それは記録しておきます」という受け止め方に留め、「直します」「検討します」といった約束めいた言葉は避けるべきです。

パターン2: 仕組みとして声を集める場を作る

個別の雑談ではなく、月次のミーティングやアンケートのような形で、意図的に不満・要望を集める場を設けるケースです。これは1年目でも有効な手段です。ポイントは、集める段階で「これは今すぐ対応するものではなく、記録として残すものです」という前提を明示しておくことです。

集めた不満は、システム管理台帳 とは別に、改善候補リストとして一元管理しておきます。声を吸い上げる行為自体は信頼構築に役立ちますが、それは「対応する約束」ではなく「把握する約束」だと社員に理解してもらう必要があります。この線引きが曖昧なまま声を集めると、パターン1と同じ失望を招きます。

パターン3: あえて今は聞かず、後回しにする

すでに現状把握のタスクで手一杯で、不満を集める余力がない場合です。この場合、無理に声を集める場を作る必要はありません。ただし、「聞かない」と「無視する」は違います。社員から不満が自然に出てきたときは、パターン1と同様に「記録しておく」姿勢だけは崩さず、聞く場を意図的に設けるのは改善フェーズに入る直前まで待つ、という選択も十分に合理的です。

聞いたあとにやってはいけないこと

どのパターンを選ぶにしても、共通して避けるべきことが一つあります。それは、聞いた不満に対して「時期尚早ですが、いずれ」という曖昧な返答だけをして、その後何の音沙汰もなくすることです。曖昧な返答は、無反応より始末が悪い場合があります。社員の記憶には「検討すると言った」という事実だけが残り、いつまでも進捗を聞かれ続けることになります。

代わりに、聞いた不満には期限のない約束ではなく、次にいつ状況を見直すかという時期だけを伝えるのが有効です。「この件は、来年度の計画を立てるタイミングで一緒に検討します」という形であれば、社員は「無視されたわけではない」と理解しつつ、社長も1年目のうちに動く必要はないと線引きできます。

この段階でやるべきこと

  • 個別の雑談で相槌だけで約束をしない。「記録しておく」という受け止め方に統一する
  • 声を集める場を作る場合は、「今は把握するだけ」という前提を先に明示する
  • 集めた不満は改善候補リストとして残し、次のフェーズの検討材料にする
  • 曖昧な返答で終わらせず、「いつ見直すか」だけは具体的に伝える

1年目に不満をどう扱うかは、その後何年もの社員との関係の土台になります。聞くこと自体を恐れる必要はありません。聞いたあとの扱い方さえ誤らなければ、不満は敵ではなく、次のフェーズで何から手をつけるべきかを教えてくれる貴重な材料になります。

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